『私、ずっと演技してるの』
「演技?」
突然の言葉に、私は目を瞬かせる。
『学校でも、家でも。いつも『如月家の令嬢』を演じてる。言葉遣いも、姿勢も、笑顔も、全部計算して……正直、疲れるときもある』
「……」
『なのに、あなたの前だとついつい本音が出ちゃうの。蒼空くんの話もするし、失敗もするし。それが嫌なわけじゃなくて。むしろ……楽なの』
「真白さん……」
『だから、言いたかったの。私、あなたのこと、友達だと思ってる。本当の意味で。ちゃんと伝えておきたくて』
電話口の真白さんの声は、照れくさそうだった。
「ありがとう、真白さん。私も」
電話を切ったあと、しばらく画面を見つめた。
ずっと演技している。その言葉が、胸の中でゆっくり広がっていく。
真白さんは「如月家の令嬢」を演じている。私は「如月真白」を演じている。
立場は全然違うのに、どこか似ている。外側の顔と、内側の気持ちが、いつもずれている。そのことを、誰にも言えないまま過ごしている。
今日の景斗さんの言葉が重なった。言葉にできないものを、線にする。
偽りの自分を演じながら、本物の誰かに近づいていく。この感覚には、いったいどこに行き場があるんだろう。
窓の外には、夜の空が広がっていた。街の光が、遠くにきれいに見えた。



