偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


一人で駅への道を歩きながら、私は今日の会話を順番に思い出していた。

絵のこと。ただ座っていられる場所のこと。食べることを、素直に楽しめること。

景斗さんは、私のことを「如月真白」だと思って、全部話してくれた。

楽しかった。今日が今までで、一番……。

その言葉が頭に浮かんだ瞬間、気づいた。

楽しかったのは、私だ。「如月真白」じゃなくて、「結城陽葵」の私が。

ずきん、と胸が鈍く痛んだ。

景斗さんが話してくれたのは、「結城陽葵」にじゃない。「如月真白」に、だ。

偽物の私に向かって、本物の言葉を預けてくれた。

それなのに、私は……。

心の中で、呟いた。

ごめんなさい、景斗さん……。

夕暮れが、濃くなっていた。



家に帰ってしばらくすると、スマホが鳴った。真白さんからの電話だった。

『お疲れさま、結城さん! 今日のカフェは、どうだった?』

「なんとか、終わりました」

『ありがとう……ねえ、ちょっといい? 話したいことがあって』

電話口の真白さんの声が、いつもより静かだった。

『……実はね、結城さんには、ちゃんと言っておきたくて』

「何ですか?」