一人で駅への道を歩きながら、私は今日の会話を順番に思い出していた。
絵のこと。ただ座っていられる場所のこと。食べることを、素直に楽しめること。
景斗さんは、私のことを「如月真白」だと思って、全部話してくれた。
楽しかった。今日が今までで、一番……。
その言葉が頭に浮かんだ瞬間、気づいた。
楽しかったのは、私だ。「如月真白」じゃなくて、「結城陽葵」の私が。
ずきん、と胸が鈍く痛んだ。
景斗さんが話してくれたのは、「結城陽葵」にじゃない。「如月真白」に、だ。
偽物の私に向かって、本物の言葉を預けてくれた。
それなのに、私は……。
心の中で、呟いた。
ごめんなさい、景斗さん……。
夕暮れが、濃くなっていた。
◇
家に帰ってしばらくすると、スマホが鳴った。真白さんからの電話だった。
『お疲れさま、結城さん! 今日のカフェは、どうだった?』
「なんとか、終わりました」
『ありがとう……ねえ、ちょっといい? 話したいことがあって』
電話口の真白さんの声が、いつもより静かだった。
『……実はね、結城さんには、ちゃんと言っておきたくて』
「何ですか?」



