「そんなの、気にしちゃダメ!」
咲季はおにぎりを私に押しつけながら、真剣な顔をした。
「陽葵のメイクで、あたしも変われたんだよ。入学したとき、あたし、人見知りがひどくて全然しゃべれなかったじゃん。陽葵にリップ塗ってもらったら、なんか急に話せた」
「……え? そうなの? 知らなかった」
「言ってなかったからね。でも、ほんとのことだよ」
咲季はあっさり言って、おにぎりの包みを剥いた。
さらっと話してくれたけど、それが咲季らしかった。大げさにしない。ただ、事実として伝えてくれる。
「みずきちゃんも、芽依ちゃんも、みんな本物だよ。アンチの声よりそっちが大事でしょ?」
「……ありがとう」
「いい? 陽葵。アンチって、誰かが輝いてるときにしか湧いてこないから。バズってる証拠でもあるんだよ」
「そんな前向きな解釈が……」
「だって事実でしょ?」
咲季のまっすぐな目を見ていたら、固まっていた何かが少しほぐれた。
──でも。
資格も何もない自分が「でしゃばっている」という不安までは、消し去ることはできなかった。
◇
夕食後。自室で一人でいると、また迷いが戻ってきた。
スマホをテーブルに置いたまま、私は天井を見つめる。
今日の咲季の言葉は嬉しかった。でも、暗い部屋で一人になると、どうしても冷たい文字ばかりが頭をよぎる。
世界中から拒絶されているような、嫌な静けさ。
そのとき、「ピコン」とDMの通知が届いた。
誰だろう……もしかして、またアンチの人?
私は生唾を飲み込んで、スマホを手に取った。



