偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「そんなの、気にしちゃダメ!」

咲季はおにぎりを私に押しつけながら、真剣な顔をした。

「陽葵のメイクで、あたしも変われたんだよ。入学したとき、あたし、人見知りがひどくて全然しゃべれなかったじゃん。陽葵にリップ塗ってもらったら、なんか急に話せた」

「……え? そうなの? 知らなかった」

「言ってなかったからね。でも、ほんとのことだよ」

咲季はあっさり言って、おにぎりの包みを剥いた。

さらっと話してくれたけど、それが咲季らしかった。大げさにしない。ただ、事実として伝えてくれる。

「みずきちゃんも、芽依ちゃんも、みんな本物だよ。アンチの声よりそっちが大事でしょ?」

「……ありがとう」

「いい? 陽葵。アンチって、誰かが輝いてるときにしか湧いてこないから。バズってる証拠でもあるんだよ」

「そんな前向きな解釈が……」

「だって事実でしょ?」

咲季のまっすぐな目を見ていたら、固まっていた何かが少しほぐれた。

──でも。

資格も何もない自分が「でしゃばっている」という不安までは、消し去ることはできなかった。



夕食後。自室で一人でいると、また迷いが戻ってきた。

スマホをテーブルに置いたまま、私は天井を見つめる。

今日の咲季の言葉は嬉しかった。でも、暗い部屋で一人になると、どうしても冷たい文字ばかりが頭をよぎる。

世界中から拒絶されているような、嫌な静けさ。

そのとき、「ピコン」とDMの通知が届いた。

誰だろう……もしかして、またアンチの人?

私は生唾を飲み込んで、スマホを手に取った。