偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「……なんか」

「どうしたの?」

「なんか、顔が……前を向いてます」

「え?」

「いつも、鏡を見ると自分の目が下を向いてて。なのに今は、ちゃんと正面を向いてる。自分の顔なのに、はじめて会う顔みたいで」

狙い通りだ、と思った。それより、「はじめて会う顔」という言葉が私の心に深く刺さった。

人は自分の顔が好きになると、自然とあごが上がる。

あごが上がると不思議なくらい声が前に出るって、演劇部の先輩が前に話していた。

声は、顔の向きについてくるんだ。

「……じゃあ、その顔のまま、セリフを言ってみて」

芽依ちゃんは鏡の中の自分をもう一度見て、小さく頷いた。

「村に……大変なことが、起きました」

さっきとは違った。声が床に落ちないで、まっすぐ私の耳まで飛んできた。

「その声だよ、芽依ちゃん!」

私は大きくうなずいた。ちゃんと部屋の空気を揺らした、前を向いている人の言葉だった。

「その声ならきっと、舞台の一番後ろまで届くよ」

芽依ちゃんの目に、うっすらと涙が浮かんだ。

「泣かないで。せっかくのラメが落ちちゃうよ」

私が笑うと、芽依ちゃんも泣きながら笑った。

そのとき、練習を終えた部長が振り返った。