偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


10月が近づいてきた頃のことだった。

演劇部では、文化祭に向けた新しい演目の稽古が始まろうとしていた。

今年の演目は『シンデレラ』に決まっている。演劇部のオリジナル脚本だ。

廊下を歩いていると、部室のドアの前で、小柄な女の子が立ち止まっているのが見えた。

ドアノブに手をかけたまま、少し迷って、また手を離す。その繰り返しを、二回、三回とやっていた。

入ろうとして、勇気が出ないみたいだった。

声をかけようか迷っているうちに、女の子がこちらを向いた。

「あ……」

ぱっと視線を逸らす。少し猫背で、前髪が長めで目元に影が落ちやすい顔立ち。制服のリボンだけが、几帳面に結ばれている。

「演劇部、見学したいの?」

私が声をかけると、女の子は小さく頷いた。

「一緒に入ろう」



彼女は、桜井(さくらい)芽依(めい)ちゃん、と名乗った。

声が小さくて、聞こえるか聞こえないかくらいだった。

部員たちの練習を眺めながら、芽依ちゃんはじっと立っていた。邪魔にならない場所に。目立たない場所に。

……私と、似てる。

私は演じる側じゃなくて裏方だから、目立たなくていいけれど。芽依ちゃんは、どうして演劇部に来たんだろう。

練習後。道具を片付けていると、芽依ちゃんが隣に来た。

「あの……入部、してもいいですか」

「もちろん。どうして演劇に興味を持ったの?」