偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


帰り道、私は遠回りして商店街を歩いた。

景斗さんの『今日の如月さんのほうが好きです』という言葉が、頭の中をぐるりと回っていた。

『今日の如月さん』というのは、失敗続きの、庶民丸出しの私のことだ。本物の如月真白さんじゃない。

もしかしたら、景斗さんは「如月真白」を好きになり始めているのかもしれない。

でも、実際に会っているのは「結城陽葵」。どちらにとっても、この関係は嘘の上に成り立っている。

次のカフェの話は、やっぱり断ったほうがいい。

そうわかっているのに、肉まんの話をしたときの景斗さんの、あの柔らかい笑顔が頭から離れなかった。

あの笑顔は、「如月真白」に向けられたものだ。だけど、彼を笑わせたのは私。

……だめだ。考えるのはやめよう。

頭を振って、私はイヤホンを耳に差し込んだ。

商店街の向こうに、夕焼けが広がっている。オレンジ色に染まった空が、路地の先まで続いていた。

季節が、少しずつ変わっていく。

私の中でも、何かが変わり始めていた──それがどこへ向かうのか、このときの私にはまだわからなかった。