偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


翌日の昼休み。廊下を歩いていると、クラスメイトの田中みずきちゃんが数人の女子生徒に囲まれているのが見えた。

少し大きめの制服を着た、小柄な女の子。前髪が目にかかりそうなほど伸びていて、うつむくと顔がほとんど隠れてしまう。

「みずき、またリボン曲がってるよ」

「髪もボサボサだし……。もっと、ちゃんとしたら?」

クスクスと笑い声が上がる。みずきちゃんはうつむいたまま、何も言い返さない。

「ていうか、みずきっていつも端っこにいてさ。存在感、薄いよね」

みずきちゃんは少しだけ唇を動かしたけれど、声にならなかった。

確かに彼女の制服のリボンは曲がっていて、髪も整っていない。だからって、それは誰かに責められることなのだろうか。

彼女の姿が、転校を繰り返して居場所がなかった頃の自分に重なって、胸が痛くなった。



その日の放課後。帰ろうとしていたみずきちゃんに、私は声をかけた。

「ねえ、みずきちゃん。このあと、時間ある?」

みずきちゃんは、驚いたように顔を上げた。前髪の隙間から、丸い目がのぞく。

「ちょっと、一緒に来てくれない?」

頷いた彼女を演劇部の部室に連れていくと、私は道具箱を開けながら言った。

「あのさ。メイク、やってみない?」

みずきちゃんは、目を大きく見開いた。

そして、「え……でも、私……」と言いかけて、自分の顔を手で少し隠すようにした。