偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


考えるのをやめて、私は手元のティーカップに目を落とした。

カップの縁に、細い金の線が入っている。それをじっと見つめることで、顔が熱くなっているのをごまかした。

「今日の如月さん」というのは、庶民丸出しの私のことだ。

今日ここにいるのが偽物だということを、景斗さんはまだ知らない。

もし本物の真白さんが目の前に現れたとき、この人はどんな顔をするんだろう。

想像したら、胸の奥が針で刺されたみたいに痛かった。



ティータイムが終わって、玄関先で別れるとき、景斗さんが言った。

「今日は楽しかったです。……また会いたいです」

「ありがとうございます」

私は頭を下げた。

「あの……次は、もっとカジュアルな場所で会いませんか? カフェとか」

「え……」

「如月さんと、もっと話したいんです」

真剣な顔だった。これ以上、続けるべきじゃない。頭では、そう分かっているのに。

「……はい」

気づいたら、また頷いていた。

景斗さんは「良かった」と呟き、小さく笑った。

玄関を出て、門を抜けるまで、私はずっと前を向いて歩いた。

景斗さんの笑顔を振り切るように、一歩一歩、確かめながら。

門の冷たい鉄の感触が、手のひらに残った。

ようやく外に出て、息を吐く。

あたたかさと罪悪感がぐるぐると混ざって、うまく整理がつかなかった。

あの笑顔をまた見たい──そう思っている自分がいた。

だめだ。私は嘘をついているんだから。そんな当たり前のことを、今さらのように思い知った。