考えるのをやめて、私は手元のティーカップに目を落とした。
カップの縁に、細い金の線が入っている。それをじっと見つめることで、顔が熱くなっているのをごまかした。
「今日の如月さん」というのは、庶民丸出しの私のことだ。
今日ここにいるのが偽物だということを、景斗さんはまだ知らない。
もし本物の真白さんが目の前に現れたとき、この人はどんな顔をするんだろう。
想像したら、胸の奥が針で刺されたみたいに痛かった。
◇
ティータイムが終わって、玄関先で別れるとき、景斗さんが言った。
「今日は楽しかったです。……また会いたいです」
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「あの……次は、もっとカジュアルな場所で会いませんか? カフェとか」
「え……」
「如月さんと、もっと話したいんです」
真剣な顔だった。これ以上、続けるべきじゃない。頭では、そう分かっているのに。
「……はい」
気づいたら、また頷いていた。
景斗さんは「良かった」と呟き、小さく笑った。
玄関を出て、門を抜けるまで、私はずっと前を向いて歩いた。
景斗さんの笑顔を振り切るように、一歩一歩、確かめながら。
門の冷たい鉄の感触が、手のひらに残った。
ようやく外に出て、息を吐く。
あたたかさと罪悪感がぐるぐると混ざって、うまく整理がつかなかった。
あの笑顔をまた見たい──そう思っている自分がいた。
だめだ。私は嘘をついているんだから。そんな当たり前のことを、今さらのように思い知った。



