偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


11月中旬のある日。私は、あのカフェにやって来た。

景斗くんと公園の帰り道に、次はカフェで、と約束していたのだ。

今日の私は眼鏡をかけて、髪をそのままにして、いつもの自分のメイクだけ。

真白さんになるためのカラーコンタクトも、シンデレラになるための舞台メイクも、何もない。

ただの陽葵のままで、ここに来た。

待ち合わせの時間より早く着いた私は、窓際の席についた。景斗くんが来る前に、一度だけ深呼吸をする。

文化祭の劇のあと、控室の前の廊下で会ったときは、メイクを半分落とした顔だった。公園では、マフラーに包まれた横顔だった。

昼間の明るい場所で、偽りのない顔で正面から向き合うのは、今日が初めてだ。

さっきから、鼓動が速い。緊張している、と自分で認めたら、不思議と落ち着いた。

しばらくして、カフェのドアが開いた。景斗くんが入ってきて、こちらに気づいて歩いてくる。

「こんにちは、陽葵」

向かいの席に腰を下ろすと、景斗くんが私の顔をまっすぐ見た。口を閉ざしたまま、少しの間黙り込む彼。

やっぱり、変なのかな?

逃げ出したくなるような沈黙に、私は思わず眼鏡の縁を指でなぞった。