偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


帰り道。坂を下りながら、また二人で並んで歩いた。

空の端が、オレンジ色に染まり始めている。落ち葉を踏む足音が、行きよりも軽い気がした。

「今日は、ありがとうございました。連れてきてもらえて、良かったです」

「こちらこそ」

しばらく、黙々と歩いた。無言のまま歩いていても、不思議と居心地が悪くない。

「また来ていいかな……陽葵と」

景斗さんが言った。坂道の先を見たまま、声がいつもより少し弾んでいた。

「陽葵」という呼び方が、まだ耳に新しかった。

景斗くんの声で、自分の名前が聞こえる。それだけのことが、これほど特別なのだと、今日初めて知った。

「もちろんです」

景斗くんが、口角を上げた。私も笑った。

夕暮れの光が、坂道の上に長く伸びていた。二人の影が、並んでそこにあった。

駅の改札で彼と別れてから、私はこっそりマフラーに顔を埋めた。

顔が、火傷したみたいに熱かった。