偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


景斗さんはしばらく考えてから、「……まあ、試してみる」と言った。少し照れているような表情だった。

東屋のベンチに場所を移して、私たちは向かい合って座った。屋根があるから風が来なくて、さっきより少し温かい。

ブラシを取り出して、私は景斗さんの顔を正面からしっかり見た。

整った顔立ちだけど、いつも疲れているような目。眉の間に、ほんの少しの緊張がある。

目元を明るくするより、眉を少しだけ整えたほうがいい。それだけで、疲れた感じが和らぐ。

景斗さん自身の顔が、一番きれいに見えるように。足しすぎない。引きすぎない。

「動かないでくださいね」

「……わかった」

景斗さんの顔にブラシを近づけた。彼の顔がこんなにも近くにあるのは初めてで、息をどこに吐いていいか分からなかった。

「緊張しないでください。肩の力を抜いて」

「君が、間近で見てくるから」

「見ないと、メイクできませんよ」

「ふは。それもそうか」

景斗さんが小さく吹き出した。頬が緩んで、眉間の緊張が取れた。今だ、と思って、私はブラシを動かした。

眉を整えて、目元にほんのわずかに手を加えるだけ。その小さな差が、印象を変える。

「このまま、動かないでくださいよ、景斗くん」

集中していたせいで、気づいたら口から出ていた。

しまった、と思って顔を上げると、彼が目だけでこちらを見ていた。

「……今、なんて?」