偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


土曜日のお昼過ぎ。景斗さんとの待ち合わせ場所である、駅前にやって来た。

改札を抜けると、景斗さんはすでに待っていた。

紺色のコートに、マフラー。肩から下げたカバンが、少しふくらんでいる。

あのカバンの中に、スケッチブックが入っているんだろうな、と思った。

「景斗さん、お待たせしました」

「いえ、俺も今来たところです」

そう言って、景斗さんは目元を緩めた。

「今日はどこへ?」

「少し歩きますけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

景斗さんの隣に並んで歩き出す。

大通りから一本入ると、急に静かになった。

細い石畳の道が続いていて、両側に古い家が並んでいる。

色づいた木々が塀の向こうから顔を出し、足元の落ち葉を踏むと、さくさくと音を立てる。

「この道、好きなんです」

景斗さんが言った。前を向いたまま、声がいつもより柔らかくなった。

「ここ、誰も来ないから。静かで」

「学校の帰りとかに来るんですか?」

「たまに。考えごとがあるときとか」

この人がここに一人で来ていたのが、なんとなく想像できた。

「景斗さんの特別な場所なんですね」

「はい」

そんな場所を、彼が今日、私に見せてくれた。それが何よりうれしかった。

落ち葉を踏む音が、二人分重なって聞こえた。