美紅先輩が演劇部の部室に顔を出したのは、文化祭から数日後のことだった。
熱が下がったのか、顔色は戻っていた。部室に入ってきた瞬間、先輩の目が少し潤んでいた。
「陽葵ちゃん、舞台の映像、見せてもらったわ。部員の子が録ってくれてたの」
「先輩……」
「あなたのシンデレラ、すごく良かった。繰り返し見ちゃった」
美紅先輩は私をまっすぐ見つめて、少し間を置いてから続けた。
「私ね、決めたことがあって。プロの舞台俳優を、目指すことにしたの」
「え!?」
「ずっと迷ってたんだけど……あなたの舞台を見て、私も踏み出そうって思えたの」
「先輩……!」
「これからも、舞台に立ち続けてね」
美紅先輩はそう言って、照れたように視線を逸らした。
自分の力で、誰かの背中を押せた。その言葉が、じんわりと体に広がった。
「先輩も夢、叶えてください」
「もちろん。叶えるわよ」
美紅先輩は凛と笑った。その笑顔は、舞台に立つ女優の顔だった。
◇
その夜。夕食の席で、私はお母さんにこれまでのことを全部話した。
怒られるかもしれない。でも、もう隠し続けるのは違う気がした。
真白さんの身代わりになったこと。景斗さんに何度も会っていたこと。バレてしまったこと。そして、舞台に立ったこと。
お母さんはお箸を置いて、ただ黙って聞いていた。
「お母さん……怒ってる?」



