「……あの、景斗さん」
「うん」
「先に、謝らせてください」
景斗さんが、まっすぐ私を見た。
「あのとき『ちゃんと話そうとしていた』と言ったけど、それは本当です。でも、結局最後まで自分からは言えなかった。景斗さんに問われて、初めて名乗った。それは……ずるかったと思っています」
景斗さんは何も言わなかった。
「真白さんになって会っていたとき、最初は引き受けた仕事のつもりでした。だけどいつの間にか、やめられなくなっていた。それは、景斗さんとの時間が本物になっていたから」
「……続けて」
責めているわけじゃない。ただ、静かに耳を傾けてくれている。
「肉まんの話をしたときも、一緒に綿菓子を食べたときも。全部、本当に楽しかった。嘘だったはずの時間が、いつしか大切なものになってしまっていた。だから……余計に、ちゃんと話せなかった」
すっと息を吸い込んだ。
「ごめんなさい。それと……」
もう一度だけ、深呼吸する。
「私……景斗さんのことが……好きになってしまいました」
ああ、言ってしまった。
顔が熱い。恥ずかしくて目を逸らしたかったけれど、逸らさなかった。
景斗さんは、少しの間黙っていた。次の言葉を待つ間、心臓が痛いくらい鳴り続けていた。
「……君が先に謝ってくれたから、俺も言える」
景斗さんが、言葉を続ける。
「如月さんを演じていた君も、今日の舞台で輝いていた君も、ぜんぶ同じ人でしょ? たとえ嘘だったとしても、君は君だよ」
「……景斗さん」
「俺も、君のことが好きだよ」
廊下に、景斗さんの声が落ちた。
「如月真白じゃない。最初から、君だった」
うそ……。



