彼と目が合った瞬間、心臓が跳ねた。息の吸い方を、一瞬だけ忘れた。
景斗さんも、メイクを半分落とした私の顔を初めて見るような目で見ていた。
「真白さん」として会っていたときとは、全然違う自分の顔で今、景斗さんと向き合っている。
部屋の外から、文化祭の音が遠く聞こえた。
「……君の演技、すごかった」
景斗さんが、口を開いた。まさか、見ていてくれたなんて。
「これ、返しに来ました」
差し出されたのは、台本だった。それから、メイク道具の入ったポーチ。
遊園地のあの日、地面に落ちたものだ。
「……ありがとうございます」
私は両手で、それを受け取った。ずっと手元になかったものが、戻ってきた。それだけのことなのに、喉のあたりがぎゅっとなった。
「あの。少し、話せますか?」
景斗さんの言葉に、私は頷いた。
二人で、控室の外の廊下に出た。人通りは少ない。廊下の窓から、午後の光が斜めに差し込んでいた。
景斗さんが何か言う前に、私は口を開いた。
今度は、自分から言わなきゃ。遊園地のとき、言いかけて言えなかったことを、今日こそ。



