偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


舞台袖からみんなの声に包まれながら控室に戻り、私はメイクを落とし始めた。

体育館の外からは、まだ文化祭のにぎわいが聞こえてくる。

笑い声、音楽、アナウンスの声。それとは反対に控室の中は静かで、さっきまでの舞台が夢だったみたいだ。

コットンにクレンジングを含ませて、顔に当てる。

ファンデーションが消え、アイラインが薄れていく。

舞台の上のシンデレラが少しずつ遠ざかって、鏡の中に結城陽葵が戻ってくる。

眼鏡をかけた、私の顔だ。

だけど今日は、その顔が一番きれいに見えた気がした。ただの陽葵で、やりきれた。

ほっとした、そのとき。

控室のドアが静かにノックされた。

「……入っていいですか」

手が止まった。コットンを持ったまま、固まった。

聞き間違いじゃない。景斗さんの声だ。

来てくれるはずがないと思っていた。なのに今、確かにこのドアの向こうに立っている。

「……どうぞ」

声が、少しだけ震えた。

ドアが開いて振り向くと、景斗さんが立っていた。

いつもの涼しい顔じゃなかった。少し迷っているような表情で、こちらを見ている。