「……景斗、あの子すごいな」
隣にいた洸が、小さくつぶやいた。
「……ああ。本当にな」
俺はそれだけ答えた。
『本当の自分で、誰かと向き合いたい』
君は今、それをやり遂げた。舞台の上で、陽葵のままで立ち続けた。
君がそうできたなら、俺にも、できるはずだ。
……次は、俺の番だ。
幕が下り、大きな拍手が体育館を包む中、俺は席を立った。カバンに手を入れて、彼女の台本を取り出す。
「楽屋口に行く。……あの子に、伝えなきゃいけないことがあるんだ」
洸に告げると、「いってらっしゃい」と、笑ってくれた。
【景斗side 終】
◇
幕が下りた瞬間、私は涙が止まらなくなった。
「陽葵、最高だったよ!!」
咲季が飛びついてくる。
「先輩、すごかったです!」
芽依ちゃんも、泣きながら笑っている。
「陽葵ちゃん、本当にありがとう。あなたがいてくれて、良かった」
部長が来て、私の背中をぽんと叩いた。
「私こそ。やらせてもらえて、良かったです」
みんなの温かい声が、どこか遠くで鳴っているみたいだった。
私は少しだけみんなから離れて、舞台袖の壁にもたれた。ドキドキがまだ止まらない。
怖かったけど、一歩踏み出したら、世界は思っていたよりもずっと優しくて、広かった。
お母さんが言っていた、あの目の光を、私はたぶん一生忘れない。
そして、結城陽葵として最後までやりきれたことも。
そのとき、廊下の向こうから、足音が近づいてくるのが聞こえた。



