偽りのお嬢様〜不器用な御曹司は、素顔の私を離さない〜


「……景斗、あの子すごいな」

隣にいた洸が、小さくつぶやいた。

「……ああ。本当にな」

俺はそれだけ答えた。

『本当の自分で、誰かと向き合いたい』

君は今、それをやり遂げた。舞台の上で、陽葵のままで立ち続けた。

君がそうできたなら、俺にも、できるはずだ。

……次は、俺の番だ。

幕が下り、大きな拍手が体育館を包む中、俺は席を立った。カバンに手を入れて、彼女の台本を取り出す。

「楽屋口に行く。……あの子に、伝えなきゃいけないことがあるんだ」

洸に告げると、「いってらっしゃい」と、笑ってくれた。

【景斗side 終】



幕が下りた瞬間、私は涙が止まらなくなった。

「陽葵、最高だったよ!!」

咲季が飛びついてくる。

「先輩、すごかったです!」

芽依ちゃんも、泣きながら笑っている。

「陽葵ちゃん、本当にありがとう。あなたがいてくれて、良かった」

部長が来て、私の背中をぽんと叩いた。

「私こそ。やらせてもらえて、良かったです」

みんなの温かい声が、どこか遠くで鳴っているみたいだった。

私は少しだけみんなから離れて、舞台袖の壁にもたれた。ドキドキがまだ止まらない。

怖かったけど、一歩踏み出したら、世界は思っていたよりもずっと優しくて、広かった。

お母さんが言っていた、あの目の光を、私はたぶん一生忘れない。

そして、結城陽葵として最後までやりきれたことも。

そのとき、廊下の向こうから、足音が近づいてくるのが聞こえた。