ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。

 ◇

「祥ちゃん?」

 大好きな声で名前を呼ばれ、僕の意識は現在へと引き戻される。

 週末の午後、スーパーのお菓子コーナー。
 棚に並んだ、あの時のカラフルなグミが目にとまり、懐かしい記憶にトリップしてしまっていたようだ。

「……あ、ごめん。ぼーっとしてた」

「これ、ほしいの? 美味しいよね〜」

 美絵が、僕の視線の先にあるグミを手に取りながら微笑んだ。

「……高校生の時にコーチしてたチームの子が、これ好きだったんだよね。駅で会った時、夢中で食べててさ」

「へー! そうなんだ。私も好きだったよ。久しぶりに食べたいな」

 そう言って、買い物カゴの中にそっと追加した。


 再び歩き出すと、隣で「あっ」と小さく声を上げた。

「私も高校生の時、駅のホームでこのグミを袋からぶちまけちゃった男の子見かけて、一緒に拾ってあげたことある」

「え」

「同じ子だったりして?」

 思わず顔を見合わせ、ふっと笑う。

「……ありえるよな。同じ駅だし」

「ねー」


 僕がカートを押し、二人並んで歩く。

「それで、祥ちゃん。今日の夜ご飯、何のメニューがいい?」

「んー……本当に何でもいいの?」

「もちろん。祥ちゃん、誕生日なんだし」

 少しだけ迷ったあと、素直な希望をこぼした。

「……じゃあ、ビーフシチュー」

 それは付き合って間もない頃、美絵が初めて振る舞ってくれた手料理であり、あの日以来ずっと、一番の大好物だ。

「はい、『先生』っ!」

 そのリクエストを聞いて、とても嬉しそうに目を細めながら、おどける彼女。
 僕の世界のすべてを照らしてくれるようなその笑顔に、相変わらず何度も恋に落ち続けている。

「……『先生』はダメ」

「なんで?」

「美絵に呼ばれると、ドキドキするから」

「えっ、なんで?」

「……わかんない」

 不思議そうにケラケラ笑いながら、カートを押す僕の腕に甘える美絵を見つめた。

 僕は、長い夢でも見ているのだろうか?
 高校生の時に見た夢の遥か上をいく、溶けそうなくらい幸せな現実を、いまだに疑ってしまう。

 もう何度目かわからない、彼女に祝ってもらう誕生日の夜。
 僕は今日も、眩いほどの幸福に酔いしれたのだった。





―― エピローグ・完 ――





この作品をお読みいただき、本当にありがとうございました。

初めて書いたものだったので、拙い部分がたくさんあったと思います。
また、ここまで長くなってしまいましたが、最後までお付き合いいただいたことに、感謝してもしきれません……!

また、番外編もいくつか書こうと考えています。
本編の前後や裏にあった「ある日、ある時」のお話です。
気軽にお楽しみいただけたら嬉しいです。

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▼ 番外編(一話完結形式)

『ふたつの時を、重ねていく』
https://www.no-ichigo.jp/book/n1782823

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現在公開中の他作品も、お楽しみいただけたら幸いです。

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▼ 連載中

『触れられなくても、君がいい。』
―― 遠距離じれキュンロマンス。暑い夏に読んでいただけたら嬉しいです。
https://www.no-ichigo.jp/book/n1787696


▼ 完結済み

『ねえ、はやく降参してよ。』
―― 同じ苗字になっても、まだ足りない。甘くて焦れったい心理戦を続ける夫婦。(甘々ビターロマンス)
https://www.no-ichigo.jp/book/n1786166

『幼馴染への三度目の失恋を回避したい』
―― 激重な片思いを隠さなくなってきた彼に、心臓がもたなくなってきた彼女。(じれじれラブコメ)
https://www.no-ichigo.jp/book/n1779799

『面識のなかった同級生と名前のない関係になったら、隙間なく重なる相性で離れられなくなった』
―― シーツの中、言葉より甘い体温に溺れていく絶対的な恋。(大人のロマンス)
https://www.no-ichigo.jp/book/n1779275

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改めまして……祥太郎と美絵の物語を読んでいただき、本当にありがとうございました。

またいつでも読みに来ていただけたら嬉しいです!