ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの初恋が熱を持った。不器用に重なり合うふたりの想いが、やがてひとつの場所へとたどり着くまでの甘い軌跡~【完結】

 ◇

 二人で校舎の横を通り抜けると、色々な思い出が詰まった校庭が、視界いっぱいに広がった。

「うわあー……」

 自然と感嘆の声が漏れた。

 私が走って跳んでいたのは、校舎の近く、マットが置いてあったあのあたり。
 そして、祥ちゃんが立っていたマウンドはあそこだ。

 休日で夕暮れ時ということもあり、広いグラウンドには誰もいない。

「行こ」

 祥ちゃんはそう言って私の手を引く。


 そして、ちょうど中学時代に彼が投げていたマウンドと、私が跳んでいた場所の「真ん中」のあたりへと私を連れてきた。

 そこにたどり着くと――。
 祥ちゃんはふうっと深く息を吸い込んで、真剣な顔を作った。

「……美絵。あのさ……」

(あ……もしかして)

 息を呑む。

(教師をやる場所を決断して、それをこれから伝えてくれるのかな……)

 もし、祥ちゃんが、東京で就職する私と離れて「ここ福島で、教師をやる」と言ったとしても、絶対に笑顔で応援してあげるんだ……。

 心の中で何度もシミュレーションを繰り返し、グッと身構えていた。

 だから――その後、そっと投げられた言葉に、耳を疑った。


「……結婚してくれませんか?」


「…………えっ?」

 突然のことに、頭が全く追いつかない。

「もちろん、今すぐじゃなくて、いいんだけど……」

(え……? 今、なんて……)

「……祥ちゃん、どこで教師やるか……決めた?」

 混乱のあまり、一番気になっていたことの確認から入ってしまう。

「あっ、えーっと。それは……東京にしようと思ってる」

(…………そうなんだ)

 彼がどちらを選んでも応援すると決めていたくせに、その答えにどうしようもなくホッとしてしまう私。

「地元は好きだし、思い入れもあるし、ここで教師になるのもいいなって考えたけど……」

「…………」

 彼の瞳を見つめながら、その声にただ耳を傾ける。

「でも、教師になりたいのと同じくらい、いや……それ以上の気持ちで、俺は美絵と一緒にいたい。それで……」

 祥ちゃんはそこで言葉を切り、ハッとしたように焦り始めた。

「……って、ごめん。話の順番めちゃくちゃになってる。それをちゃんと説明してから……言えばよかったよな」

 彼は苦笑いしながらそう言って、姿勢を正し、もう一度、私の目を真っ直ぐと見た。


「……俺と、結婚してください」


 大人になった彼の輪郭が、夕焼けの淡い光に美しく縁取られている。


 私は弾かれたように地面を蹴り上げて、彼の首元に抱きついた。

「……おっ、と……」

 その勢いに、彼の身体は少しだけ揺れたけれど、しっかりと私を受け止めた。

「……っ、はい。結婚したいです」

 涙が混ざった声で、そう答える。

「……マジ? やったあ」

 自分から言ったことだけど信じられない、というように、祥ちゃんは心底嬉しそうな声をあげた。

 私を抱きしめ返す彼の腕は、力強く、そして途方もなく優しい。

 ふたりが出会ったこの場所で、私と彼の未来へと続く線が、ゆっくりと、たしかに重なったときだった。





―― 本編・完 ――

いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。

このあと、エピローグがあります。
祥太郎の高校時代の記憶にまつわるお話となり、そちらをもって完結いたします。

最後、お楽しみいただけたら嬉しいです……!