◇
二人で校舎の横を通り抜けると、色々な思い出が詰まった校庭が、視界いっぱいに広がった。
「うわあー……」
自然と感嘆の声が漏れた。
私が走って跳んでいたのは、校舎の近く、マットが置いてあったあのあたり。
そして、祥ちゃんが立っていたマウンドはあそこだ。
休日で夕暮れ時ということもあり、広いグラウンドには誰もいない。
「行こ」
祥ちゃんはそう言って私の手を引く。
そして、ちょうど中学時代に彼が投げていたマウンドと、私が跳んでいた場所の「真ん中」のあたりへと私を連れてきた。
そこにたどり着くと――。
祥ちゃんはふうっと深く息を吸い込んで、真剣な顔を作った。
「……美絵。あのさ……」
(あ……もしかして)
息を呑む。
(教師をやる場所を決断して、それをこれから伝えてくれるのかな……)
もし、祥ちゃんが、東京で就職する私と離れて「ここ福島で、教師をやる」と言ったとしても、絶対に笑顔で応援してあげるんだ……。
心の中で何度もシミュレーションを繰り返し、グッと身構えていた。
だから――その後、そっと投げられた言葉に、耳を疑った。
「……結婚してくれませんか?」
「…………えっ?」
突然のことに、頭が全く追いつかない。
「もちろん、今すぐじゃなくて、いいんだけど……」
(え……? 今、なんて……)
「……祥ちゃん、どこで教師やるか……決めた?」
混乱のあまり、一番気になっていたことの確認から入ってしまう。
「あっ、えーっと。それは……東京にしようと思ってる」
(…………そうなんだ)
彼がどちらを選んでも応援すると決めていたくせに、その答えにどうしようもなくホッとしてしまう私。
「地元は好きだし、思い入れもあるし、ここで教師になるのもいいなって考えたけど……」
「…………」
彼の瞳を見つめながら、その声にただ耳を傾ける。
「でも、教師になりたいのと同じくらい、いや……それ以上の気持ちで、俺は美絵と一緒にいたい。それで……」
祥ちゃんはそこで言葉を切り、ハッとしたように焦り始めた。
「……って、ごめん。話の順番めちゃくちゃになってる。それをちゃんと説明してから……言えばよかったよな」
彼は苦笑いしながらそう言って、姿勢を正し、もう一度、私の目を真っ直ぐと見た。
「……俺と、結婚してください」
大人になった彼の輪郭が、夕焼けの淡い光に美しく縁取られている。
私は弾かれたように地面を蹴り上げて、彼の首元に抱きついた。
「……おっ、と……」
その勢いに、彼の身体は少しだけ揺れたけれど、しっかりと私を受け止めた。
「……っ、はい。結婚したいです」
涙が混ざった声で、そう答える。
「……マジ? やったあ」
自分から言ったことだけど信じられない、というように、祥ちゃんは心底嬉しそうな声をあげた。
私を抱きしめ返す彼の腕は、力強く、そして途方もなく優しい。
ふたりが出会ったこの場所で、私と彼の未来へと続く線が、ゆっくりと、たしかに重なったときだった。
―― 本編・完 ――
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
このあと、エピローグがあります。
祥太郎の高校時代の記憶にまつわるお話となり、そちらをもって完結いたします。
最後、お楽しみいただけたら嬉しいです……!
二人で校舎の横を通り抜けると、色々な思い出が詰まった校庭が、視界いっぱいに広がった。
「うわあー……」
自然と感嘆の声が漏れた。
私が走って跳んでいたのは、校舎の近く、マットが置いてあったあのあたり。
そして、祥ちゃんが立っていたマウンドはあそこだ。
休日で夕暮れ時ということもあり、広いグラウンドには誰もいない。
「行こ」
祥ちゃんはそう言って私の手を引く。
そして、ちょうど中学時代に彼が投げていたマウンドと、私が跳んでいた場所の「真ん中」のあたりへと私を連れてきた。
そこにたどり着くと――。
祥ちゃんはふうっと深く息を吸い込んで、真剣な顔を作った。
「……美絵。あのさ……」
(あ……もしかして)
息を呑む。
(教師をやる場所を決断して、それをこれから伝えてくれるのかな……)
もし、祥ちゃんが、東京で就職する私と離れて「ここ福島で、教師をやる」と言ったとしても、絶対に笑顔で応援してあげるんだ……。
心の中で何度もシミュレーションを繰り返し、グッと身構えていた。
だから――その後、そっと投げられた言葉に、耳を疑った。
「……結婚してくれませんか?」
「…………えっ?」
突然のことに、頭が全く追いつかない。
「もちろん、今すぐじゃなくて、いいんだけど……」
(え……? 今、なんて……)
「……祥ちゃん、どこで教師やるか……決めた?」
混乱のあまり、一番気になっていたことの確認から入ってしまう。
「あっ、えーっと。それは……東京にしようと思ってる」
(…………そうなんだ)
彼がどちらを選んでも応援すると決めていたくせに、その答えにどうしようもなくホッとしてしまう私。
「地元は好きだし、思い入れもあるし、ここで教師になるのもいいなって考えたけど……」
「…………」
彼の瞳を見つめながら、その声にただ耳を傾ける。
「でも、教師になりたいのと同じくらい、いや……それ以上の気持ちで、俺は美絵と一緒にいたい。それで……」
祥ちゃんはそこで言葉を切り、ハッとしたように焦り始めた。
「……って、ごめん。話の順番めちゃくちゃになってる。それをちゃんと説明してから……言えばよかったよな」
彼は苦笑いしながらそう言って、姿勢を正し、もう一度、私の目を真っ直ぐと見た。
「……俺と、結婚してください」
大人になった彼の輪郭が、夕焼けの淡い光に美しく縁取られている。
私は弾かれたように地面を蹴り上げて、彼の首元に抱きついた。
「……おっ、と……」
その勢いに、彼の身体は少しだけ揺れたけれど、しっかりと私を受け止めた。
「……っ、はい。結婚したいです」
涙が混ざった声で、そう答える。
「……マジ? やったあ」
自分から言ったことだけど信じられない、というように、祥ちゃんは心底嬉しそうな声をあげた。
私を抱きしめ返す彼の腕は、力強く、そして途方もなく優しい。
ふたりが出会ったこの場所で、私と彼の未来へと続く線が、ゆっくりと、たしかに重なったときだった。
―― 本編・完 ――
いつも読んでいただき、本当にありがとうございます。
このあと、エピローグがあります。
祥太郎の高校時代の記憶にまつわるお話となり、そちらをもって完結いたします。
最後、お楽しみいただけたら嬉しいです……!



