◇
実家に着いて一息ついたあと、「ちょっと出かけてくるね」と言って、自転車で家を出た。
母は「どこに〜?」と言いながらニヤニヤしていて、何かを察している様子だった。
父は「ん? どこにだ!?」と最後までしつこく聞いてきたけれど、適当に誤魔化して逃げるようにペダルを漕いだ。
十五分ほどかけて着いたのは――総合病院の前にある小さな公園。
中学生のとき、祥ちゃんと二度目に言葉を交わした場所だ。
ここで待ち合わせることにしている。
祥ちゃんは、駅から出ているバスに乗って来る予定だ。
病院前にある停留所で降りれば、すぐ目の前に公園がある。
早めに着くと、ひと組の小学生のグループが、端っこで駄弁って遊んでいた。
古い小さなブランコに腰掛ける。
キイッ、と錆びた金属が軋む音がした。
東京よりも澄んでいるように感じる故郷の空気。
大きく吸い込み、そっと吐き出しながら、静かにブランコをこいで待った。
「……美絵」
しばらくして、後ろから、大好きな声で名前を呼ばれた。
ゆっくりと振り返ると――そこには、ずっと会いたくてたまらなかった彼が立っていた。
「……祥ちゃん」
呼び返したものの、次の言葉が出てこない。
中学のときは反対に、怪我をして落ち込んでいる祥ちゃんの背中に、私から話しかけた。
その時の記憶が、鮮明に蘇る。
まだあどけなさが残っていた、中学生の彼の姿。
「…………」
祥ちゃんも黙ったまま、隣のブランコに腰掛ける。
ギイッという、私が座った時より低くて重たい音が鳴った。
「やば、壊れるかな?」
祥ちゃんが、やや焦りながら言う。
「祥ちゃん、大きいもんね」
私が笑うと、彼も笑った。
こんな何気ないやり取りだけで、とてつもない幸福感に包まれる。
背の高い彼が、小さなブランコにちょこんとおさまっている、そのちぐはぐな姿がどうしようもなく愛おしい。
少しの沈黙のあと、話を切り出そうと息を吸い込んだ、その瞬間。
「……初めて美絵を見たのは、中学一年の夏前くらいで」
先に口を開いた祥ちゃんが、静かに話し始めた。
いきなりの昔話に、思わず「えっ?」と彼を見た。
実家に着いて一息ついたあと、「ちょっと出かけてくるね」と言って、自転車で家を出た。
母は「どこに〜?」と言いながらニヤニヤしていて、何かを察している様子だった。
父は「ん? どこにだ!?」と最後までしつこく聞いてきたけれど、適当に誤魔化して逃げるようにペダルを漕いだ。
十五分ほどかけて着いたのは――総合病院の前にある小さな公園。
中学生のとき、祥ちゃんと二度目に言葉を交わした場所だ。
ここで待ち合わせることにしている。
祥ちゃんは、駅から出ているバスに乗って来る予定だ。
病院前にある停留所で降りれば、すぐ目の前に公園がある。
早めに着くと、ひと組の小学生のグループが、端っこで駄弁って遊んでいた。
古い小さなブランコに腰掛ける。
キイッ、と錆びた金属が軋む音がした。
東京よりも澄んでいるように感じる故郷の空気。
大きく吸い込み、そっと吐き出しながら、静かにブランコをこいで待った。
「……美絵」
しばらくして、後ろから、大好きな声で名前を呼ばれた。
ゆっくりと振り返ると――そこには、ずっと会いたくてたまらなかった彼が立っていた。
「……祥ちゃん」
呼び返したものの、次の言葉が出てこない。
中学のときは反対に、怪我をして落ち込んでいる祥ちゃんの背中に、私から話しかけた。
その時の記憶が、鮮明に蘇る。
まだあどけなさが残っていた、中学生の彼の姿。
「…………」
祥ちゃんも黙ったまま、隣のブランコに腰掛ける。
ギイッという、私が座った時より低くて重たい音が鳴った。
「やば、壊れるかな?」
祥ちゃんが、やや焦りながら言う。
「祥ちゃん、大きいもんね」
私が笑うと、彼も笑った。
こんな何気ないやり取りだけで、とてつもない幸福感に包まれる。
背の高い彼が、小さなブランコにちょこんとおさまっている、そのちぐはぐな姿がどうしようもなく愛おしい。
少しの沈黙のあと、話を切り出そうと息を吸い込んだ、その瞬間。
「……初めて美絵を見たのは、中学一年の夏前くらいで」
先に口を開いた祥ちゃんが、静かに話し始めた。
いきなりの昔話に、思わず「えっ?」と彼を見た。



