席に戻ると、球場は七回の攻撃を前に、ジェット風船を飛ばす準備でさらに熱を帯びていた。
けれどそれとは反対に、私の心は急速に冷えていく。
「美絵、おかえりい〜」
ぼんやりと聞こえる、いずみの出迎える声。
やってしまった。
『見に行きたい』なんて、さすがに図々しかった。
いくら中学の同級生だからって、距離感を間違えたよね?
よく考えたら、教えている瀬川くんも、練習しているみんなも、全員真剣だ。
それをただ見学するなんて、邪魔だよね。
(調子に乗っちゃった……。瀬川くん、困ってた)
ちょっと優しくされたからって、勘違いして。
恥ずかしさと情けなさで、目の前の試合展開なんて頭に入ってこない。
――ブブッ。
手のひらの中で、スマホが短く震えた。
画面を見ると、メッセージの通知が表示されている。
差出人は――『瀬川くん』。
心臓が口から飛び出そうになった。
震える指でロックを解除する。
『さっきはごめん。言いそびれたけど』
『見てもらえたら、俺も嬉しい。いつでもいいよ』
短いメッセージ。
けれど、その文字を見た瞬間、じわっと体温が上昇する。
『嬉しい』『いいよ』
その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
よかった。
なんか今、飛び跳ねたい。
どんよりと胸に立ち込めていたモヤモヤが、一瞬で桃色の花びらになって弾け飛んだようだった。
口元が緩むのを止められない。
スマホをギュッと握りしめて顔を上げると、遠くの席に座る瀬川くんの後ろ姿が目に映った。
隣のいずみが、「……あれ?」と不思議そうに覗き込んできた。
「なんかいいことあった?」
「えっ!? な、なんで?」
「だってさっきまで、ちょっと沈んでたのに。今はなんか……顔、パアァァッてなってるよ? ご機嫌じゃん」
そう指摘して、ニヤニヤしながら私の頬をつつく。
「そ、そんなことないよ! 試合、勝ってるからかな!」
「ふーん? 怪しいなあ」
私は慌ててメガホンを持ち直し、熱くなっている顔を隠した。
空には、無数の風船が鮮やかに舞い上がっていく。
その光景が、涙が出そうになるほど綺麗に見えた。
この感情の名前は、まだわからない。
ただ、彼の言葉ひとつで、目に映る世界がこんなにも鮮やかに変わることを、この夜に知ったのだった。
(そういえば……瀬川くん。コンコースで会ったとき、結局飲み物を買っていなかったよね?)
そのことに気づいたのは、家に帰って一息ついた後のことだった。
けれどそれとは反対に、私の心は急速に冷えていく。
「美絵、おかえりい〜」
ぼんやりと聞こえる、いずみの出迎える声。
やってしまった。
『見に行きたい』なんて、さすがに図々しかった。
いくら中学の同級生だからって、距離感を間違えたよね?
よく考えたら、教えている瀬川くんも、練習しているみんなも、全員真剣だ。
それをただ見学するなんて、邪魔だよね。
(調子に乗っちゃった……。瀬川くん、困ってた)
ちょっと優しくされたからって、勘違いして。
恥ずかしさと情けなさで、目の前の試合展開なんて頭に入ってこない。
――ブブッ。
手のひらの中で、スマホが短く震えた。
画面を見ると、メッセージの通知が表示されている。
差出人は――『瀬川くん』。
心臓が口から飛び出そうになった。
震える指でロックを解除する。
『さっきはごめん。言いそびれたけど』
『見てもらえたら、俺も嬉しい。いつでもいいよ』
短いメッセージ。
けれど、その文字を見た瞬間、じわっと体温が上昇する。
『嬉しい』『いいよ』
その言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
よかった。
なんか今、飛び跳ねたい。
どんよりと胸に立ち込めていたモヤモヤが、一瞬で桃色の花びらになって弾け飛んだようだった。
口元が緩むのを止められない。
スマホをギュッと握りしめて顔を上げると、遠くの席に座る瀬川くんの後ろ姿が目に映った。
隣のいずみが、「……あれ?」と不思議そうに覗き込んできた。
「なんかいいことあった?」
「えっ!? な、なんで?」
「だってさっきまで、ちょっと沈んでたのに。今はなんか……顔、パアァァッてなってるよ? ご機嫌じゃん」
そう指摘して、ニヤニヤしながら私の頬をつつく。
「そ、そんなことないよ! 試合、勝ってるからかな!」
「ふーん? 怪しいなあ」
私は慌ててメガホンを持ち直し、熱くなっている顔を隠した。
空には、無数の風船が鮮やかに舞い上がっていく。
その光景が、涙が出そうになるほど綺麗に見えた。
この感情の名前は、まだわからない。
ただ、彼の言葉ひとつで、目に映る世界がこんなにも鮮やかに変わることを、この夜に知ったのだった。
(そういえば……瀬川くん。コンコースで会ったとき、結局飲み物を買っていなかったよね?)
そのことに気づいたのは、家に帰って一息ついた後のことだった。



