◇
そして、約束の日。
僕は二限から授業があったため、重い足取りでキャンパスに向かっていた。
大学の正門にもうすぐ着くというところで、すれ違った女子学生たちの会話がふっと耳に入ってきた。
「門のところにいた二人、めっちゃ美男美女だったね〜。なんか絵になってた」
その会話を特に気に留めるつもりはなかったのだけれど、なぜか妙に頭に残ったまま足を進めた。
門の手前に着くと、その脇に立つ人影に視線が吸い寄せられた。
僕の足が、意図せずピタリと止まる。
黒地に白い水玉模様のクラシカルなワンピースに、さらさらと揺れる栗色の髪。
――……美絵だ。
今日の夕方に会う約束をしている、彼女だった。
久しぶりに見かけるその姿は、不思議と一層、美しく見えて。
抑えていたはずの胸が、勝手に激しく高鳴りだす。
そして……美絵の横にいる、こちらに背中を向けて立つスーツ姿の背の高い男に気づいた。
彼女は、彼を見上げながら、何かを喋っている。
ふいに、さっきすれ違った女子学生の言葉が、頭に舞い戻る。
『門のところにいた二人、めっちゃ美男美女だったね〜。なんか絵になってた』
美絵が、数メートル先にいる僕の視線に気づいた。
その瞬間、なぜかひどく驚き、サッと血の気が引いたような表情になった。
彼女の視線を追うようにして、スーツの男が振り返る。
その顔や雰囲気が、僕の脳裏に、遠い冬の記憶をフラッシュバックさせた。
僕とは違った雰囲気の、色気の漂う大人の男。
中学の時、美絵と手を繋いで歩いていた――あの男。
彼女の元彼、じゃないか……?
美絵の唇が、「……あ」と小さく動いたのが見えた。
最後に僕の部屋で、泣いている彼女を見送ってから、今日まで長かった。
やっと会えた。
会えたことを喜びたいのに、目の前の状況に、僕はただ激しく困惑している。
硬直している美絵を見て怪訝な顔をした彼が、何かを尋ねている。
彼女は戸惑いながらも、それに答えているようだ。
(なんで今……美絵が元彼と一緒にいるんだ)
頭の中が真っ白になる。
居た堪れなくなり、会話を交わす二人から目を背け、逃げるようにその場を後にしていた。
背後から、美絵が僕の名前を呼ぶ小さな声が聞こえた気がした。
でも、振り向けなかった。
もし振り向いて、彼と並ぶ彼女の姿をもう一度見てしまったら、自分がどうなってしまうかわからなかった。
そして、美絵が僕を追いかけてくる足音は、なかった。
そして、約束の日。
僕は二限から授業があったため、重い足取りでキャンパスに向かっていた。
大学の正門にもうすぐ着くというところで、すれ違った女子学生たちの会話がふっと耳に入ってきた。
「門のところにいた二人、めっちゃ美男美女だったね〜。なんか絵になってた」
その会話を特に気に留めるつもりはなかったのだけれど、なぜか妙に頭に残ったまま足を進めた。
門の手前に着くと、その脇に立つ人影に視線が吸い寄せられた。
僕の足が、意図せずピタリと止まる。
黒地に白い水玉模様のクラシカルなワンピースに、さらさらと揺れる栗色の髪。
――……美絵だ。
今日の夕方に会う約束をしている、彼女だった。
久しぶりに見かけるその姿は、不思議と一層、美しく見えて。
抑えていたはずの胸が、勝手に激しく高鳴りだす。
そして……美絵の横にいる、こちらに背中を向けて立つスーツ姿の背の高い男に気づいた。
彼女は、彼を見上げながら、何かを喋っている。
ふいに、さっきすれ違った女子学生の言葉が、頭に舞い戻る。
『門のところにいた二人、めっちゃ美男美女だったね〜。なんか絵になってた』
美絵が、数メートル先にいる僕の視線に気づいた。
その瞬間、なぜかひどく驚き、サッと血の気が引いたような表情になった。
彼女の視線を追うようにして、スーツの男が振り返る。
その顔や雰囲気が、僕の脳裏に、遠い冬の記憶をフラッシュバックさせた。
僕とは違った雰囲気の、色気の漂う大人の男。
中学の時、美絵と手を繋いで歩いていた――あの男。
彼女の元彼、じゃないか……?
美絵の唇が、「……あ」と小さく動いたのが見えた。
最後に僕の部屋で、泣いている彼女を見送ってから、今日まで長かった。
やっと会えた。
会えたことを喜びたいのに、目の前の状況に、僕はただ激しく困惑している。
硬直している美絵を見て怪訝な顔をした彼が、何かを尋ねている。
彼女は戸惑いながらも、それに答えているようだ。
(なんで今……美絵が元彼と一緒にいるんだ)
頭の中が真っ白になる。
居た堪れなくなり、会話を交わす二人から目を背け、逃げるようにその場を後にしていた。
背後から、美絵が僕の名前を呼ぶ小さな声が聞こえた気がした。
でも、振り向けなかった。
もし振り向いて、彼と並ぶ彼女の姿をもう一度見てしまったら、自分がどうなってしまうかわからなかった。
そして、美絵が僕を追いかけてくる足音は、なかった。


