ふたつの弧が、重なるとき ――元エースピッチャーの彼と、走り高跳びの彼女。熱を持った六年越しの初恋を、不器用に重ね合わせていく。【完結】

 美絵のいない、無機質で長い一日が繰り返されていた。

 大学の講義が終わったあと、バイトも入っていない夕方。
 今日も薄暗い部屋で一人、ただぼーっとソファの上に寝転んでいた。

 ふと、ローテーブルに置いていたスマホが震える。
 身体を起こし、ゆっくり画面に視線を移すと、浮かび上がった二文字が目に入った。


 ――『美絵』


「…………っ」

 その瞬間、ハッと現実に引き戻され、心臓が大きく音を立てる。

 彼女の声……今すぐに聞きたい。
 けれど、電話に出るのが怖い。
 僕は、だいぶ女々しい臆病者になってしまったようだ。

 彼女の口から決定的な言葉を聞かされるのが恐ろしくて、伸ばした手に力が入らない。
 それでも、鳴り続ける着信音に急かされるように、そっとスマホを持ち上げ、通話ボタンを押した。

「……はい」

 努めて穏やかに、動揺を悟られないように応える。

『……祥ちゃん』

 電話の向こうから、久しぶりに聞く彼女の声。
 それは、微かに震えていた。

「……うん?」

 短く返すと、息を呑む気配がした。

『……会いたい……話したい』

 そっとこぼれた言葉は、涙の気配を帯びていた。

 僕と同じように、会えない寂しさを募らせてくれているのだろうか。
 それとも――僕にとって辛い決断を伝えるのが心苦しくて、泣いているのだろうか。
 どちらかわからなかったけれど了承し、明後日に会う約束をして電話を切った。


 通話が切れた後も、しばらくスマホを握りしめていた。

(……久しぶりに声が聞けて、嬉しかった)

 やっぱり僕は、美絵のことが、震えるほどに愛おしい。

 明後日会えたら、彼女の陽だまりみたいな柔らかい笑顔が見たい。
 もし叶うなら、この腕で強く抱きしめたい。

 これまで僕に向けてくれた色とりどりの表情が、次々と頭に浮かぶ。

 でも、もし彼女の気持ちがもう以前とは違っていたら。
 あの特別な笑顔が、もう僕に向けられないとしたら――。

 期待と不安で、心がぐちゃぐちゃになった。

 その夜は、ほとんど眠れなかった。