ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの初恋が熱を持った。不器用に重なり合うふたりの想いが、やがてひとつの約束へとたどり着くまでの甘い軌跡。~

 分厚く濃い灰色の雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな週末の夕方。
 やけに空が低く、息苦しい。
 近づいている低気圧のせいか、朝からずっと頭の芯に鈍い痛みが居座っている。

 バイトが終わり、薄暗い部屋に帰ってきた僕は、電気もつけないままベッドに深くダイブした。

 ドサッと重い音を立ててシーツに沈み込み、枕に顔をうずめる。

「…………」

 すると微かに、本当に微かにだけれど、美絵の髪の甘い香りがまだ残っているような気がして、たまらなく胸が苦しくなった。


『……少し、考えさせて』

 あの日、美絵にそう言われてから、もう一週間以上が経った。
 今まで生きてきた中で、一番長い一週間だった。

 その間、大学の講義とバイト以外の時間は、何もする気が起きず、ただひたすらベッドの上で寝て過ごしていた。

『考えたい』というのは――。
 僕との付き合いを考え直したい……つまり、『別れ』の可能性がある、ってことだろうか。

 本当はどういう意味なのか、聞けばよかった。
 引き止めて、ちゃんと話し合えばよかった。

 でも、今にも泣き出しそうに歪んだ美絵の顔を見たら、まさに『そういう意味』だと突きつけられるような気がして、恐ろしくて何も聞けなかったのだ。

 お互いに好きで一緒にいるはずだった。
 こんなことになるなんて、思ってもみなかった。

 絶望とショックで頭が真っ白になってしまって、あの朝、彼女をどうやって部屋から見送ったのか、記憶すら曖昧だ。

 こうなったのは、きっと僕のせいだ。
 暗闇の中で目を閉じると、自分の放った言葉が刃のように何度も胸を刺す。

『柳くんの前で泣いた、自分は?』

 美絵が何かに苦しんでいて、大きな不安を抱えていることは、感じ取れたのに。
 自分の嫉妬や独占欲、そして「こんなに好きなのに、信じてもらえていない」という苛立ちを我慢できず、あろうことか彼女が一番脆くなっているときに責めてしまった。

 彼女を受け止めるどころか、彼女の逃げ場を、この僕が塞いでしまったんだ。