バイトを終えて更衣室でスマホを開いたが、美絵からの返信はなかった。
彼女のほうはとうに終わっているはずの時間だ。
帰り道、歩きながら何度も画面を確認したけれど、通知はない。
(家に着いたら、電話してみようか……)
いや……昼間のこともあって、今は話したくないのかもしれない。
とりあえず家に着いてから、もう一度メッセージを送って様子を見よう。
そんな考えを巡らせながら、アパートの階段を上がる。
角を曲がり、自分の部屋のドアが視界に入った瞬間――。
僕は、目を見開いた。
「……え? 美絵!?」
扉の前に、ちょこんとしゃがみ込んでいる小さな影。
それは間違いなく、美絵だった。
驚いて駆け寄る。
ゆっくりと頭を上げた彼女は、「あ、祥ちゃん」と、少しホッとしたような、力無い笑顔を見せた。
「……いつからいた?」
「んー……二十分くらい前かな」
思わず、その手に触れた。
春とはいえ、夜風はまだ肌寒い。
美絵の小さな手は、すっかり冷え切っていた。
急いで鍵を開け、彼女を中に押し入れてドアを閉めた。
「……ごめん。突然来ちゃって」
「……暗くなってから来るときは、連絡ほしい。一人で夜道を歩くのも、家の前で待ってるのも危ないから」
本当に驚いて心配したせいで、自分でもわかるくらい声が低く、硬くなってしまった。
責めるつもりはなかったのに、美絵はビクッと肩を揺らしてから視線を落とした。
「……ごめんなさい」
「……怒ってるわけじゃないんだけど……心配だから」
フォローするように言ったけれど、彼女は俯いたまま小さく頷くだけだった。
靴を脱ぐ美絵の横を通ったとき、ふわっと甘い匂いが鼻をかすめた。
シャンプーや柔軟剤じゃない。これは――。
「……お酒、飲んでたりした?」
そう尋ねると、ややバツが悪そうに「……うん」と頷いた。
「……誰と?」
「店長と……柳くん」
「…………へえ」
努めて平坦な声で返したが、胸の奥がチクッと刺されたように痛んだ。
(俺からのメッセージには返信せず、彼らと飲んでいたのか……)
カチッ、と電気をつける。
明るくなった部屋で改めて顔を見ると、目元が赤く腫れていることに気がついた。
「え、美絵……泣いた?」
顔を覗き込むと、彼女はサッと目を伏せ、しばらく黙り込んだ。
「……うん。バイトでミスしちゃって、落ち込んじゃって」
ぽつりとこぼされた理由。
なんとなく、それだけではないような気がした。
でも、泣き腫らした顔を問い詰める気にはなれなかった。
「……そうなんだ」
それ以上深く聞くのはやめて、小さく息を吐いた。
とりあえず、先にお風呂に入ってもらった。
続いて僕もシャワーを浴びて出る頃には、時間もすっかり遅くなっていた。
お互い必要以上の会話はしないまま、電気を消して静かに布団に入った。
いつもより少し隙間を空けた隣から、美絵の寝息が聞こえてくる。
(柳くんと……何話したんだろう)
暗闇の中で、嫌な想像だけが頭の中をぐるぐると回り続けていた。
彼女のほうはとうに終わっているはずの時間だ。
帰り道、歩きながら何度も画面を確認したけれど、通知はない。
(家に着いたら、電話してみようか……)
いや……昼間のこともあって、今は話したくないのかもしれない。
とりあえず家に着いてから、もう一度メッセージを送って様子を見よう。
そんな考えを巡らせながら、アパートの階段を上がる。
角を曲がり、自分の部屋のドアが視界に入った瞬間――。
僕は、目を見開いた。
「……え? 美絵!?」
扉の前に、ちょこんとしゃがみ込んでいる小さな影。
それは間違いなく、美絵だった。
驚いて駆け寄る。
ゆっくりと頭を上げた彼女は、「あ、祥ちゃん」と、少しホッとしたような、力無い笑顔を見せた。
「……いつからいた?」
「んー……二十分くらい前かな」
思わず、その手に触れた。
春とはいえ、夜風はまだ肌寒い。
美絵の小さな手は、すっかり冷え切っていた。
急いで鍵を開け、彼女を中に押し入れてドアを閉めた。
「……ごめん。突然来ちゃって」
「……暗くなってから来るときは、連絡ほしい。一人で夜道を歩くのも、家の前で待ってるのも危ないから」
本当に驚いて心配したせいで、自分でもわかるくらい声が低く、硬くなってしまった。
責めるつもりはなかったのに、美絵はビクッと肩を揺らしてから視線を落とした。
「……ごめんなさい」
「……怒ってるわけじゃないんだけど……心配だから」
フォローするように言ったけれど、彼女は俯いたまま小さく頷くだけだった。
靴を脱ぐ美絵の横を通ったとき、ふわっと甘い匂いが鼻をかすめた。
シャンプーや柔軟剤じゃない。これは――。
「……お酒、飲んでたりした?」
そう尋ねると、ややバツが悪そうに「……うん」と頷いた。
「……誰と?」
「店長と……柳くん」
「…………へえ」
努めて平坦な声で返したが、胸の奥がチクッと刺されたように痛んだ。
(俺からのメッセージには返信せず、彼らと飲んでいたのか……)
カチッ、と電気をつける。
明るくなった部屋で改めて顔を見ると、目元が赤く腫れていることに気がついた。
「え、美絵……泣いた?」
顔を覗き込むと、彼女はサッと目を伏せ、しばらく黙り込んだ。
「……うん。バイトでミスしちゃって、落ち込んじゃって」
ぽつりとこぼされた理由。
なんとなく、それだけではないような気がした。
でも、泣き腫らした顔を問い詰める気にはなれなかった。
「……そうなんだ」
それ以上深く聞くのはやめて、小さく息を吐いた。
とりあえず、先にお風呂に入ってもらった。
続いて僕もシャワーを浴びて出る頃には、時間もすっかり遅くなっていた。
お互い必要以上の会話はしないまま、電気を消して静かに布団に入った。
いつもより少し隙間を空けた隣から、美絵の寝息が聞こえてくる。
(柳くんと……何話したんだろう)
暗闇の中で、嫌な想像だけが頭の中をぐるぐると回り続けていた。



