ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの初恋が熱を持った。不器用に重なり合うふたりの想いが、やがてひとつの約束へとたどり着くまでの甘い軌跡。~

 さっきまで、あんなに楽しい気分だったのに。
 一度決壊した涙腺は、自分でも止められないくらいに後から後から涙を溢れさせていく。

「もう! 柳くんがキツい言い方するからでしょーが!」
「いや、俺のせいすか!?」
 店長が柳くんの肩をバシッと叩き、私には慌てておしぼりを渡しながら背中をさすってくれた。

「自分に自信ねえ……。でもたしかに、私も二十歳の頃は、自信なんて全然なかったかも」

 店長は優しくポンポンと私の背中を叩きながら、穏やかな声で語りかける。

「今も、『自分に自信があるか?』と聞かれたら、はっきりと肯定はできないけど……でも、自分の考え方や生き方には、満足してるかな?」
「満足、ですか……?」
「そう。大学を出て、右も左もわからないまま働いて、色々失敗して成長して……。それを繰り返して、だんだんそうなっていくんじゃないかな?」
「…………」
「大丈夫! 美絵ちゃんも柳くんも、私が二十歳の時より、全然立派に働いてくれてるからー!」

 そのあたたかい励ましと肯定の言葉に、逆に涙腺が緩んでしまった。
 柳くんが頭を掻き、呆れながらも小さな声で言った。

「……悪い」

 私は思い切り首を左右に振って、『違うの。柳くんのせいじゃないの』と、涙声の代わりに懸命に訴えた。

 ◇

 涙がおさまってからは、三人で色々と楽しい話で盛り上がることができた。
 店長と柳くんのおかげで、さっきまでの泥沼のような思考から抜け出し、少しだけ心が軽くなっているのを感じた。

「……すみません。楽しい場で泣いたりして」
 駅の改札前。別れ際に、私は改めて二人に頭を下げた。
「いえいえ! 若い二人と飲めるなんて楽しかったわー。また行こうね!」
「店長、ごちそうさまでした」

 店長は私たちとは路線が違うため、ヒールを鳴らして元気に手を振りながら去って行った。

 改札前で、柳くんと二人きりになる。

「柳くん、ごめん。柳くんのせいじゃないからね」
「……ああ」

 柳くんは短く相槌を打つだけで、それからお互いあまり喋らずに改札へ入り、それぞれのホームへの階段前まで歩いた。

「……じゃ。元気出せよ」
 別れ際、柳くんが少し視線を逸らしながら、ぶっきらぼうにその一言をかけてくれた。

「……ありがとう。おやすみ!」
 お礼を言って、私は踵を返した。

 背後で、柳くんが小さく呟いた声が聞こえた気がした。
「……あれ? あいつ、方向あっちだっけ」

 私は酔った頭のまま、自分の家とは逆の方向――祥ちゃんの家へと向かう電車に乗っていた。