ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの初恋が熱を持った。不器用に重なり合うふたりの想いが、やがてひとつの約束へとたどり着くまでの甘い軌跡。~

「……彼氏ですかあー? めっちゃカッコよくて、大好きですよお〜」
 えへへへ、と笑みが止まらない。

「……店長。こいつ、酒入るとめんどくさいタイプっすね」
 呆れ顔でジョッキを傾けながら、柳くんが横目で私を見て苦笑いする。
「えー! いいじゃなーい! デレてる美絵ちゃん、可愛すぎる〜!」
 対する店長は両手で自分の頬を包みながら、微笑ましい表情で私を見てくれていた。

 駅前にある和食の居酒屋さん。
 週の真ん中の平日だからか、運良く個室の部屋に通してもらえた。

 私は誕生日の時と同じピーチ味のサワーを頼んだ。
 けれど、お店のお酒は少し度数が強いのか、それともバイト後の疲れがあったからか、この前よりもずっと酔いが回っている気がする。
 頭の芯がふんわりと解けて、宙に浮いているみたいにふわふわしている。

 でも、アルコールが今日の嫌な出来事にベールをかけてくれているようで、ただただハッピーな気分だった。

(今なら、祥ちゃんにぎゅーって抱きついて『今日はごめんね。ただいつものやきもち焼いちゃったの』って、素直に謝れる気がする……)

 深刻にせず、さらっと言える。
 そんな根拠のない自信すら湧いてきていた。

「柳くんはー? 彼女とかいるの?」
 ふと、店長が柳くんに話を振った。
「今はいないです。まあ、俺はひとりでも全然平気なんで。好きになれば付き合うし、そうじゃなくなれば別れるし……みたいな感じですね」
「えー、なんかめちゃくちゃドライだわ」
 あっけらかんと答える柳くんに、店長が少し怯えたように肩をすくめる。

 店長は三十三歳の大人の女性なわけだが、十年間同棲している彼氏がいるらしい。

 さっき聞いたその話に、今度は柳くんが切り込んだ。
「店長は、結婚とか考えてるんすか?」
「んー」
 店長は斜め上を見つめ、お酒を一口飲んでから続けた。
「五年くらい前かな? その頃までは、『早くプロポーズしろよ』っていつもイライラしてたの。彼、仕事に夢中でさ……」
 懐かしむように目を細める。
「でもね、そのころ彼が大きい交通事故に遭って、ちょっと危ない状態までなって……。そっから、『一緒にいられるのが貴重だな』みたいに思うようになって、あまり多くを望まなくなったんだよね」

 酔った頭だったけれど、私はその話に真剣に聞き入っていた。

「私も、店長になってから仕事がすごく面白くなったのもあって、このままきちゃって。将来のこと考えたら、そろそろ何かしら動かないとって、わかってるんだけど」
 そう言って苦笑いをしてから、ふわりと優しく微笑む。

「まあでも、幸せだよ」

 色んなことを経験してきた、大人の包容力ある女性。
 その笑顔が、私にはひどく眩しく見えた。