ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの初恋が熱を持った。不器用に重なり合うふたりの想いが、やがてひとつの約束へとたどり着くまでの甘い軌跡。~

 ◇

 千尋さんと別れ、私はひとりでカフェテリアへと向かいながら、頭の中で彼女の言葉を反芻していた。

『就職は就職で、行きたいところを見つける』か……。

 今、自問自答してみて思いつく自分の願望は、ただ「祥ちゃんといたい」ということだけだった。

 地元へ帰りたいという強い思いも、東京に残って何かを成し遂げたいという野心もない。
 自分自身の中に、未来に対する主体的な希望が何ひとつ見当たらない。

 ただ、祥ちゃんの近くにいたい。
 彼についていきたい。

 私……祥ちゃんに依存しているんだろうか。

 教職という明確な目標に向かって歩き出した彼に、こんな「自分のない考え」を知られたら、幻滅されてしまうかもしれない。
 自立した大人の女性には程遠い自分に、愛想を尽かされてしまうかもしれない……。

 入り口から中を覗き込み、祥ちゃんがいつもよく座る席を探す。

(あ、いた……)

 見つけた瞬間、私の足はピタリと止まってしまった。
 彼の隣に、女の子が並んで座って、一緒にテキストを眺めていたのだ。

(誰だろう……)

 近づいてみると、見たことのない子だった。
 私よりずっと大人っぽくて、落ち着いた雰囲気の子……。


「あ、志乃。忘れてる」

 祥ちゃんは彼女のことを、『志乃』と下の名前で呼んだ。
 たったそれだけのことなのに、胸の奥がギュッと締め付けられる。

 子供っぽいって、わかってる。
 わかってるけど……。

 優しくて落ち着いていて、少しハスキーな、私の大好きな声。
 その声で、他の子の名前を呼びかけたことが、どうしようもなく嫌だった。

 たとえば、いずみのことも祥ちゃんは下の名前で呼んでいるけれど、それとは全然違うニュアンスに聞こえてしまった。

 彼女は、祥ちゃんと同じく教師を目指しているという。
 もしかして……祥ちゃんが教育の道に進む決断をしたのは、彼女が相談に乗ったり、背中を押したりしたからなのかな。
 考えすぎかもしれない。ただの妄想かもしれない。
 でも……すごくありえる話。

 リアルでネガティブな思考が、次々と私の頭を支配していく。

「あ……うん、大丈夫だよ」
 なんとか微笑んでそう答えるのが精一杯だった。

 祥ちゃんとその子の間に流れる、同じ目標を持った「同志」のような空気に、私はひどく居たたまれなくなってしまった。

 バイトまではまだ時間があったのに、せっかく待っていてくれた彼の元から逃げるように去ってしまった。

 重い足取りでバイト先に向かいながら、私は深い自己嫌悪に陥っていた。