ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの初恋が熱を持った。不器用に重なり合うふたりの想いが、やがてひとつの約束へとたどり着くまでの甘い軌跡。~

「3、2、1……!」

 小さな間接照明だけを点けた薄暗い私の部屋で、ショートケーキに立てられた『2』と『0』の形のロウソクを、フーッと息を吹きかけて消した。

「……誕生日、おめでとう」

 暗闇の中で祥ちゃんから思い切り甘い声が降ってきて、次の瞬間、大きな腕にぎゅっと抱きしめられた。
 そのまま、ぐっと想いのこもった力強いキスをひとつ受け取る。

「……ありがとうっ」

 私が照れ隠しにお礼を言うと、祥ちゃんは立ち上がり、パチリと部屋のメインの電気をつけた。

「ケーキ、食べよっか」

 そう言って、テーブルに並んだ二つのショートケーキにフォークを伸ばした。

「おいしー。夜中にケーキ食べるなんて背徳感あるけど、最高に幸せ」

 クリームを頬張りながら笑うと、祥ちゃんはそんな私をニコニコと見守りながら、自分の分のケーキはわずか三口くらいであっという間に平らげてしまった。

「あれ、持ってくる?」

 祥ちゃんが立ち上がり、さっき買ってきたアルコール度数低めの桃味の缶チューハイを冷蔵庫から取り出して、グラスに注いでくれた。
 祥ちゃん自身のグラスには、烏龍茶を注いでいる。

「成人おめでとー」
「ありがとー」
 コツン、と二つのグラスを合わせて乾杯する。

 二十歳になったということで、初めてのお酒だ。
 両親は二人ともお酒に弱くないから、遺伝的には大丈夫なはずだけれど……少し緊張しながら、恐る恐る一口飲んでみる。

「……美味しい!」
 桃の甘さが強くてジュースみたいだ。

 二、三口と飲み進める。

「どう? 大丈夫そう?」
 心配そうに気にかけてくれる祥ちゃんに、「うん!」と笑顔で答えつつも、油断せずにちびちびと飲み進めることにした。

 とはいえ、アルコールではある。
 徐々に身体がポカポカして、頭の芯が若干ホワホワしてくる感覚があった。

「美絵も、もうハタチなんだなー」
 秋生まれの祥ちゃんが二十歳になるのは、まだ半年以上先だ。
「はい。ハタチの抱負は?」
 祥ちゃんが手をグーにして、マイクを向けるように私の口元へ寄せた。
 それは、祥ちゃんの十九歳の誕生日の時に私がやった仕草だ。

「うーんとね……」
 お酒の回りと、普段なら寝ている時間の眠さとで、少し頭がぼーっとしているかもしれない。
 私は微笑みながら、心の中にあった本音を口にした。

「祥ちゃんの隣で、ちゃんと胸を張れるように頑張りたい」

 その言葉に、彼は少し驚いたように目を丸くした。
「美絵は今のままで十分、魅力的な人だよ」
「ありがとう……。でもね、私自身がそう思えるようになりたいの」
 私が見つめ返して言うと、祥ちゃんは「なるほど……」と呟き、少し釈然としない様子で頬杖をついて前を向いた。

「…………」
 なんだか考え込んでいるようなその横顔を眺めていたら、ふと、無性に触れたくなってしまった。
 私は手を伸ばし、祥ちゃんのほっぺたを人差し指でツン、と突いてみる。

 私のより少し硬い、男の子らしい弾力。

「え、なに?」

 もう一度ツン、とする。

「……もしかして、ちょっと酔っ払ってる?」
 笑いながら聞かれて、私は「ううん」と首を振りながら、祥ちゃんの大きな背中にギュッと抱きついた。
「大好きなだけ〜」
 ケラケラと笑い声が漏れる。
「……やっぱり酔っ払ってるじゃん」
 呆れたように笑う祥ちゃん。

 私はさらに楽しくなってしまって、彼の左側のほっぺにチュッ、右側にもチュッと何度か軽いキスをした。
「ちょっ、と……。いや、可愛すぎるから……マジでやめて……」
 いつもは余裕のある彼が、苦笑いしながらやや本気で困り始めた。
 その反応が面白くて、私は彼の腕の中でまた笑い転げた。

 結局、缶チューハイを一本飲み終える頃には、私の瞼は鉛のように重くなり、開けていられなくなってしまった。
 最後は「ほら! 寝るなら歯磨いて」と祥ちゃんに無理やり洗面所へ連行され、半分寝ぼけながら歯を磨き、そのままベッドへと倒れ込んだのだった。