食堂ではミリーネが優雅に朝食を食べていた。
テーブルの上には焼きたてのミルクブレッドやクロワッサン、スクランブルエッグにソーセージ、具沢山の野菜スープなどが並んでいる。
今朝のミリーネは機嫌が良かった。普段なら来るのが遅いだの、おまえは愚図だのとちくちく嫌味を言われるのにそれがない。
寧ろ肩を揺らして鼻歌を歌いそうな勢いだった。
「ご用件は何でしょうか、お姉様?」
使用人と同じように深々と頭を下げてからフィリーネが尋ねる。
ミリーネはフィリーネを見向きもせず、ミルクブレッドにバターを薄く塗っている。続いてブルーベリーのジャムをたっぷり塗ると口に運んだ。
ゆっくり丁寧にミルクブレッドを食べて、お茶を飲む。それからやっとフィリーネを一瞥した。
「今日はアーネスト様がいらっしゃる日よ。公爵の代理で忙しいのに、私のためにわざわざ足を運んでくださるの」
アーネストはランドレイス公爵家の嫡男で、ミリーネの婚約者だ。
オルクール王国の二代公爵家の一つであるランドレイス家は、国王代理として国政を代々任されている。それ故、貴族の中でも絶大な権力を有していた。
そんな公爵家のアーネストとミリーネが婚約したのは今から十二年前、二人が八歳の時だ。
顔合わせ当初から、ミリーネは幼いながらに隠しきれない美貌を持ったアーネストに惚れ込んでいる。美しさだけでなく品行方正で紳士的な性格なため、さらにミリーネを夢中にさせた。
「いい? 公爵家の馬車が来る前に仕事をさっさと済ませて地下に戻るのよ。絶対に上がってこないで。おまえのような忌み子をアーネスト様に会わせる訳にはいかないんだから」



