(私に話を振らないでください! お姉様の殺気がっ、殺気がビシビシ飛んできます!!)
そしてさらに、ミリーネは「絶対に断れ」という無言の圧力もかけてくる。
無論、フィリーネだってそのつもりだ。三人でお茶など生きた心地がしない。
「申し訳ございませんが、私は仕事がありますので遠慮させていただきます」
「そうなのかい? それは残念だな」
「彼女を困らせてはいけないわ、アーネスト様。さあ、おまえも早く持ち場に戻って。いいわね?」
優しい声音で言い含めるミリーネは微笑みを浮かべている。だが、その目は一切笑っていなかった。
「はい。失礼します」
フィリーネは深々と頭を下げて地下へと続く裏階段に向かう。平静を装っていたが、心臓はずっとドクドクと激しく脈打っていた。背中に嫌な汗を感じる。
(どどど、どうしましょう。お姉様は怒っているようでしたが、あれは怒髪天を衝く感じでした。あとで呼び出されるのは必至ですね)
ミリーネは怒ると怖い。罵詈雑言を浴びせられるのはまだいいとして、問題はどんな罰――仕事を言いつけられるかだ。
この間怒らせてしまった時は、機嫌が直るまで汚れていない玄関ホールの階段を一日中磨かされた。
(あの日の夜は心身ともにへとへとでした。今回も前回と同じだったらどうしましょう)
叱られる覚悟も罰を受ける覚悟もできているが、ミリーネがどんな罰を言いつけてくるか気が気でない。
とはいえ、考えても仕方がないのでフィリーネは不安を払拭するように頭を振った。それから、ぺちんと両頬を軽く叩く。
「ふぅ。まずはあれこれ考えるよりも目の前の仕事です。野菜の下処理を終わらせませんと!」
胸の辺りで拳を作ったフィリーネは残りの仕事を完遂させようと意気込む。
この時のフィリーネは自分の予想を超えるミリーネの罰が待ち受けているなど、知る由もなかった。



