実を言うと、オルクール王国を統治しているのは人間ではない。竜人という種族だ。
彼のもとで国民は他国から守られ、平和な生活が送れている。
竜人族は人間よりも長寿で三千年ほど生きられる。彼らのほとんどは空都よりさらに上空にある、天空の国に住んでいるらしい。しかし、オルクール王国の竜王陛下は天空から降りて来て人間に手を貸してくれている。
とはいっても今代の竜王陛下――シドリウスは冷酷無比な君主で有名である。
――現竜王陛下に逆らってはいけない。人間とは違い、温情の欠片もないお方だから。
シドリウスは気に食わない貴族たちを見つけては次々と一掃した。中でも先代・ギデリウスの腹心たちへの圧力は激しかったらしく、彼らは粛正されて爵位も剥奪されてしまった。当時有力だった貴族の大半は見る影もなく、結果として『冷酷無比』の異名がついた。
また、噂では顔色が悪くて爬虫類をぺしゃんこにした醜男だと言われている。
「そういえばお妃様、竜王陛下の番はまだ見つからないのでしょうか?」
フィリーネは率直な疑問を口にした。
シドリウスはここ百年ほど番を見つけるために世界中を飛び回っている。もともと竜人族の数は少なく、彼らは一生をかけて番を探し出す。
竜人族の間で番が見つけられたら安泰なのだが、見つけられなかった場合は番が人間である可能性が高い。そのため、竜人族は天空を降りて人間の番を探し回る習性がある。
シドリウスがオルクール王国を統治して二百年ほどの時が経つが、彼の場合は最初に有力貴族を粛正してしまったために政治が機能しなくなり、国が安定するまでは番探しどころではなかった。
しかし、百年前にようやく国が平定したので専念できるようになったらしい。
シドリウスが番探しをしている間、国政を任されたのがランドレイス家だ。
ランドレイス家の者は代々品行方正で模範的だ。他の貴族は公爵家に一定の評価を示しており、信頼を寄せている。国民からも不平不満が爆発したことはない。
したがって、ミリーネの婚約者であるアーネストも結婚相手には申し分ない人物だった。
窓を拭き終えて書斎を出る頃には篠をつく雨が降り始めた。



