居間に花瓶を飾り終えた後、フィリーネは廊下を歩く。
アーネストが来るのは正午の予定だが、速やかに地下に戻っておく必要がある。彷徨いて下手にミリーネの顰蹙を買いたくない。
歩みの速度を上げていると、前方にお腹を押さえて蹲る侍女がいた。
「どうしました? 具合が悪いのですか?」
駆け寄ったフィリーネは覗き込むようにして尋ねる。
侍女の顔色は悪かった。
「フィリーネお嬢様……その、お腹が痛くて」
フィリーネの不思議な力は、ストレスや不安といった精神面から来る症状は和らげられても、身体面から来るものに関してはフィリーネには対処できない。
したがって、マーシャの時のように助けてあげられない。
フィリーネはただ優しい言葉をかけるしかなかった。
「それは辛いですね。どうか早く休んでください」
「いえ。書斎の窓拭きが終わっておりませんので」
侍女の足元には水が張ったバケツに雑巾がかけられている。フィリーネはバケツをちらりと見てから、侍女に視線を戻した。



