今のように、光の精霊師ではなくてもフィリーネは不思議な力を使ってちょっとした治療を行っている。
不眠だったり、気分の浮き沈みが激しかったりする使用人はフィリーネに祈ってもらうことで症状が劇的に改善されるのだ。
マーシャはフィリーネに握ってもらっていた方の手をもう片方の手で擦りながら、嘆息を漏らす。
「お嬢様はこんなにもお優しいのに。旦那様たちから酷い目に遭うのは納得がいきません。カトリーヌ様がご存命なら旦那様の横暴な態度を咎めたはずです。言い伝えに一番憤っていらっしゃいましたから」
もともとマーシャはカトリーヌ付きの侍女だった。
生前のカトリーヌは言い伝えによって誰かが虐げられ、傷つくのを嫌っていた。様々な文献を調べて闇の精霊師と光の精霊師が共存できる道を模索していたらしい。
結局、最良の答えが見つからないまま、この世を去ってしまったが。
「私の存在がお父様やお姉様にとって脅威なのは違いありません。なので、二人の負担を少しでも軽くできるように私は住環境を整えます!」
フィリーネはパンッと手を合わせて明るく言うと、マーシャの前にある花瓶をひょいと持ち上げた。
「さて、お客様がお越しになる前に階上の仕事を終わらせてきますね。終わったら野菜の下処理が待ってます」
物言いたげなマーシャをよそに、フィリーネは元気よく仕事を再開した。



