嵐が吹き上げる森の中。
年代物のウエディングドレスに身を包んだ少女が、アカマツの木に縄で括りつけられていた。
暴風雨によって全身はびしょ濡れ。さらにオーバル形の銀縁眼鏡にはたくさん雨粒がついていて、視界を遮っている。
頭につけていたショートベールは、気づけばどこかへ飛んでいってしまっているし、気休めに結い上げられていた白銀色の髪は解けてしまっている。
暴風が彼女の髪を好き勝手に弄んでいる状態だ。
(ああ、どうしましょう。まさか迷信のマツの木と本当に結婚させられるなんて思いもしませんでした……)
少女――フィリーネの顔に悲哀感が漂う。
何時間と雨に打たれ続けたせいで身体はぶるぶると震えていた。
厳しい冬が終わり陽春を迎えた頃とはいえ、陽が遮られた日はまだまだ冷える。
それに今着ているのは、デコルテをスッキリと見せるオフショルダータイプのウエディングドレスだ。露出部分が多いため、体温を奪われるのは必至である。
こんな悪天候の中で馬鹿げた行いをフィリーネに強制させたのは、姉のミリーネだ。
(この罰はいつまで続くのでしょう? お姉様の怒りが収まるまで? だけどお姉様は二度と屋敷に戻るなと言いました)
目を三角にしたミリーネの姿が脳裏に浮かぶ。
濃い金髪に薄紅色の瞳を持つミリーネは目鼻立ちがはっきりしている。赫怒したらそれが際立って恐ろしい。
怒る彼女を思い出してなのか、はたまた冷たい雨のせいなのかは分からないけれど、背筋に寒気が走った。
自分自身を抱きしめてやることも叶わず、フィリーネはただ途方に暮れた。



