亡者逃走中 in 現世

「断る!」
​しょーくんの容赦ない一言が、会議室にバシッと響き渡った。
​「川の字どころか、部屋の敷居すら跨がせるつもりはない。一人で寝ろ」
「ひどい!僕は今、精神的にとってもナイーブなんだよ!?」
「自業自得だ。そもそも亡者を逃がしたのは誰だ」
​転輪さんの冷たい眼光に射抜かれ、閻魔は「うぐっ」と言葉を詰まらせて縮こまった。
​「……まぁ、冗談はさておき」
​変成くんが肘をテーブルにつき、画面の動画をトントンと指で叩く。
​「この配信者の亡者、現世の犯罪組織に囲われてるなら、居場所の特定は警察の動きを見るか、ネットのログを追うのが早そうだね」
「ネット追跡ならごーちゃんに任せれば一発じゃん?」
「いやー、期待させて申し訳ないんだけど……アタシ、そんなのできないよ」
「できないの!?」
​私の素っ頓狂な声が会議室に響き渡った。
あ、ありえない……!いつもスマホを素早く操作しては、現世の最新トレンドから裏情報まで何でも乗りこなしているごーちゃんが、まさかのできない宣言。
​「だってアタシ、ハッカーじゃないもん」
ごーちゃんは画面を指でトントンと叩きながら、呆れたように肩をすくめた。
「SNSのバズ動画を見つけるくらいならお手の物だけど、アドレスから居場所を特定するとか、そんなアニメみたいな真似できるわけないでしょ〜。人道の『サイバー犯罪対策課』を舐めちゃダメだよ」
「五官王でも難しいとなると、居場所を特定するのは不可能であるんであるな……」
「平等王お得意のネットラジオは?」
「吾輩はレコード派であるんである」
「いや、知らないよ」
​思わず変成くんがツッコミを入れると、平等王は「む……最新の技術には疎くてな」とバツの悪そうな顔で腕を組んだ。
「どげんしよう……びんたいたかー……」
頭を抱える泰山王を横目に、室内には重苦しい沈黙が落ちてきた。
「警察に任せられる部分は任せるとしても、警察より先に亡者の身柄を押さえないと審判を下せないもんね……」
​私が腕を組んで唸っていると、それまで黙って腕を組んでいた宋が、ゆっくりと口を開いた。
​「居場所の特定が難しいなら、オレ達も人気配信者になればいいんじゃね!?」
「「「「「「「「「……はぁ!?」」」」」」」」」
​宋のあまりにも突拍子もない提案に、会議室にいた全員の声が見事にハモった。
​「居場所を探す話をしてたのに、なんで私達が配信者になるの!?」
「いやいや、最後まで聞いて!」
​宋は立ち上がり、身振り手振りを交えて熱弁を振るい始める。
「オレ達が超人気配信者になって、向こうのプライドをバキバキに折るの!承認欲求の塊みたいな奴なら、絶対に『オレの方が凄い』ってマウント取りに接触してくるはずでしょ~?」
「宋帝王は何を言っているんだ?」
転輪さんが腕を組みながら首を傾げた。
​宋は目を輝かせながら、自信満々に人差し指を突き立てる。
​「あの動画見たでしょ?狂信者を集めて『神様』気取りで調子に乗ってるんだよ。そこにさ、突如として超ハイクオリティで話題性バツグンのオレ達が現れて、一瞬でランキングをぶち抜いてみ? 絶対裏から突っかかってくるか、直接マウント取りにコラボ申請してくるに決まってる!」
「いやいや、理屈は分かったけどさ!」
私が思わず身を乗り出して口を挟む。
「そんな一朝一夕で超人気配信者になれるわけないでしょ!? 現世の配信業界、甘く見すぎだよ!」
「そのための都市王だよ!」
「―――え?」
​全員の視線が、都市くんへと向けられた。
​「ちょっと待ってください宋帝王、何でそこで僕の名前が出るんですか!?」
都市くんが露骨に嫌そうな顔をして後ずさる。
「だって都市くん、アイドルオタクで動画やネットの仕組みにめちゃくちゃ詳しいじゃん!」
​宋はニヤッと笑って都市くんの肩を組み、力強くポンポンと叩いた。
​「企画立案、編集、プロデュースなどなど……都市くんなら得意そうだよね〜」
「オタクを何だと思ってるんですか!?僕はプロデューサーじゃなくてファンです」
​都市くんが叫ぶが、宋はどこ吹く風で「都市王なら、できるできる☆」とゴリ押している。
「案外、良いんじゃない?」
​それまで静観していた変成くんが、あごに手を当てて不敵な笑みを浮かべた。
「えっ、本気!?」
「うん。逃げ回る亡者を力ずくで捜すより、向こうから尻尾を出させる方が効率的だしね。……それに、何より面白そうだし」
「最後のが本音でしょ!?」
​私のツッコミを華麗にスルーして、変成くんは都市くんの前に歩み寄ると、その肩にそっと手を置いた。
「大丈夫、俺達も手伝う。特に平等王とかはレコード出してるし色々知ってそうだよね」
「多少は知っているんである」
「あのレコード結構人気ですしね」
「吾輩のレコードがそのような扱いを受けているとは……」
「平等サァ、人気者じゃっど」
泰山王が大きな手でバシバシと平等王の背中を叩きながら、豪快に笑った。
​――というわけで。
行き当たりばったりの作戦ではあるけれど、亡者をおびき出すために十王のみんなで配信を始めることになってしまったのだった。