「……はぁ」
一通りツッコミが飛び交ったあと、しょーくんが深いため息をついた。
「で?このくだらない話をした後で、何の用だったんだ」
ぴたり、と空気が少しだけ引き締まる。
「あ」
「……そういえば」
「忘れてた」
「お前らな」
しょーくんのこめかみに青筋が浮かぶ。
「元々は都市王の件で集まっていたんだろうが」
「あー……そうだった」
宋がぽりぽりと頭をかく。
都市くんはソファに沈み込んだまま、疲れたように呟いた。
「……謝ったんですから許して下さいよ」
「駄目に決まってるだろ!」
即答だった。
「むしろここからが本題だ」
しょーくんはそう言って、軽く手を叩く。
その音を合図に、だらけていた空気が少しずつ整っていく。
「閻魔くんに連絡したら『一旦冥府帰ってきて〜☆』だって」
スマホのメッセージアプリをスクロールしていたごーちゃんが見せてくれた。
「えー、このままで良くない?」
「良くない」
「はーい」
渋々と立ち上がる宋。 オムライスもそれに合わせてぴょこんと起き上がり、とことことついてくる。
***
閻魔庁の一室。
長机を囲むように、それぞれが席につく。
「何事もなくて良かったが……一体何をしていたんだ?」
転輪さんが首を傾げながら都市くんに尋ねる。
「…………ッス」
都市くんはじり、と椅子ごと後ろに下がろうとするが―――
「……聞こえないんだが」
不機嫌オーラの転輪さんが詰め寄る。
転輪さんは規律と礼儀をこよなく愛する、いわば鬼大佐のような存在だ。
「まぁまぁ、転輪サァ。何事もなっ全員揃うたんじゃ。素直に喜ぶど」
泰山王がぱん、と手を打って場を収める。
「そうだよ、五道転輪王。怒り鎮めて、ね?」
「喜ぶのは亡者を全員送り還してからだ」
「……まぁ、その通りだけどね」
閻魔が苦笑しながら頭を搔く。
「とはいえ、まずは話を進めないといけない。都市王も戻ってきたことだしね」
「……」
都市くんは視線を逸らしたまま、気まずそうに指先をいじっている。
閻魔が長机を囲んで座るみんなの顔を見渡す。
「さて、全員揃ったし会議を始めよう。まずは都市王が追っていた厄介な亡者についてだね」
さっきまでのぐだぐだが嘘みたいに、みんなの視線が机の中央へ集まった。
「じゃあ、僕が説明しますね。お手元の資料をご覧くださーい」
都市王くん自作の資料を見ながら説明してくれる。
「僕が探していたのはある配信者の亡者なんですよ」
「配信者?」
「その配信者はとある層から莫大な人気を集めていまして、死んだ後もファンは彼を崇め祀り上げてしまったんですよ」
「うげー、趣味悪っ」
「で、戻ってきた亡者を見て『生き返った!』とか本気で言ってるんですよねー」
「まあ、半分合ってるよね」
「参考までに聞くが、そのファンとは?」
「あー、犯罪組織ですね。なんか、人身売買のバイヤーとかで警察も捜査中らしいです」
「なっ……」
胸の奥がキュッと苦しくなる。
それを見ていたのか、しょーくんが私の頭にポンッと手を置く。
「生きている人間を裁くのは私達じゃ無理だ。人間に任せよう」
しょーくんは険しい表情のまま、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
そもそも、地獄に堕ちるくらい悪行を繰り返した亡者だから、現世に戻っても心を入れ替えるとは思えない。
「……なるほどのぉ」
泰山王が腕を組みながら低く唸る。
数人は腕を組み、数人は顔を見合わせ、理解しきれずに首を傾げている。
「ありがとう、都市王」
閻魔が静かに頷いた。
しん、と静まり返る室内。
重たい内容のせいか、さっきまでの軽い空気はすっかり消えている。
「……厄介だな」
最初に口を開いたのは、転輪さんだった。
「人道で亡者を崇め祀っているとは」
「少なくとも、ここまで悪質なんは珍しか」
「悪意ない亡者なんかいないでしょ。ただでさえ地獄での鬱憤を晴らせずに現世に戻っちゃったんだから」
変成くんがイライラしたように腕を組む。
「こりゃ面倒なことになったね〜……」
「ああ」
しょーくんと一緒にため息をつく。
「そいつらに好き勝手やられちゃ、十王の信用問題を問われるから、ちゃちゃっと送り還したいとこなんだけどな〜……めんどくさ」
「変成くんは獄卒の方が良かったんじゃない……?大叫喚地獄をぶっ壊したくらいだし」
「はは、何言ってんの、五官王。獄卒だとサボれないじゃん」
変成くんは“至って真面目です”みたいな顔で、堂々とサボり宣言をした。
「そもそも、仕事をサボることがいかんのである!」
平等王がドンッと長机を叩く。
「平等王の言う通りだ」
輪転さんも重々しく頷いた。
その時だった。
「――あ、そうだ」
軽い声を上げたのはごーちゃんだった。
全員の視線がそちらに向く。
「その件っぽいの見つけたんだよね」
「さすが五官王だね〜」
閻魔が素直に驚いた。
「いや、ほら。現世のネット見てたらさ、“生き返った配信者”の動画がバズってて」
ごーちゃんはスマホを操作し、テーブルの中央に画面を差し出した。
「これ」
画面に映っていたのは、一人の男だった。
暗い部屋。ぼそぼそと何かを呟きながら、カメラを見つめている。
その目は――どこか、焦点が合っていない。
「……こいつが?」
「あーそうそう。そんな顔ですよ」
都市くんが身を乗り出して画面を覗き込む。
「再生数……え、何これ」
「三日で五百万超えだってさ」
「はぁ!?」
宋が素っ頓狂な声を上げる。
「コメントも見てみなよ」
変成くんが画面をスクロールする。
〈生きてる……!〉
〈やっぱり戻ってきてくれたんだ〉
〈神様だ〉
〈次は“あれ”やってくれるよね?〉
「……怖い」
思わず、ぽつりと呟いてしまった。
まるで―――人じゃなくて、“何か”を信仰しているみたいだ。
「……気味が悪いな」
低く呟いたのは転輪さんだった。画面を睨むその目は、さっきまで以上に鋭い。
「信仰、というよりは……依存、かのぉ」
泰山王が顎に手を当てる。
「しかも、相手が“亡者”じゃっど。こいは質が悪か」
「怖いねぇ……今日、みんなで川の字で寝よう?」
コメントを読んでいた閻魔が震えながら言った。
一通りツッコミが飛び交ったあと、しょーくんが深いため息をついた。
「で?このくだらない話をした後で、何の用だったんだ」
ぴたり、と空気が少しだけ引き締まる。
「あ」
「……そういえば」
「忘れてた」
「お前らな」
しょーくんのこめかみに青筋が浮かぶ。
「元々は都市王の件で集まっていたんだろうが」
「あー……そうだった」
宋がぽりぽりと頭をかく。
都市くんはソファに沈み込んだまま、疲れたように呟いた。
「……謝ったんですから許して下さいよ」
「駄目に決まってるだろ!」
即答だった。
「むしろここからが本題だ」
しょーくんはそう言って、軽く手を叩く。
その音を合図に、だらけていた空気が少しずつ整っていく。
「閻魔くんに連絡したら『一旦冥府帰ってきて〜☆』だって」
スマホのメッセージアプリをスクロールしていたごーちゃんが見せてくれた。
「えー、このままで良くない?」
「良くない」
「はーい」
渋々と立ち上がる宋。 オムライスもそれに合わせてぴょこんと起き上がり、とことことついてくる。
***
閻魔庁の一室。
長机を囲むように、それぞれが席につく。
「何事もなくて良かったが……一体何をしていたんだ?」
転輪さんが首を傾げながら都市くんに尋ねる。
「…………ッス」
都市くんはじり、と椅子ごと後ろに下がろうとするが―――
「……聞こえないんだが」
不機嫌オーラの転輪さんが詰め寄る。
転輪さんは規律と礼儀をこよなく愛する、いわば鬼大佐のような存在だ。
「まぁまぁ、転輪サァ。何事もなっ全員揃うたんじゃ。素直に喜ぶど」
泰山王がぱん、と手を打って場を収める。
「そうだよ、五道転輪王。怒り鎮めて、ね?」
「喜ぶのは亡者を全員送り還してからだ」
「……まぁ、その通りだけどね」
閻魔が苦笑しながら頭を搔く。
「とはいえ、まずは話を進めないといけない。都市王も戻ってきたことだしね」
「……」
都市くんは視線を逸らしたまま、気まずそうに指先をいじっている。
閻魔が長机を囲んで座るみんなの顔を見渡す。
「さて、全員揃ったし会議を始めよう。まずは都市王が追っていた厄介な亡者についてだね」
さっきまでのぐだぐだが嘘みたいに、みんなの視線が机の中央へ集まった。
「じゃあ、僕が説明しますね。お手元の資料をご覧くださーい」
都市王くん自作の資料を見ながら説明してくれる。
「僕が探していたのはある配信者の亡者なんですよ」
「配信者?」
「その配信者はとある層から莫大な人気を集めていまして、死んだ後もファンは彼を崇め祀り上げてしまったんですよ」
「うげー、趣味悪っ」
「で、戻ってきた亡者を見て『生き返った!』とか本気で言ってるんですよねー」
「まあ、半分合ってるよね」
「参考までに聞くが、そのファンとは?」
「あー、犯罪組織ですね。なんか、人身売買のバイヤーとかで警察も捜査中らしいです」
「なっ……」
胸の奥がキュッと苦しくなる。
それを見ていたのか、しょーくんが私の頭にポンッと手を置く。
「生きている人間を裁くのは私達じゃ無理だ。人間に任せよう」
しょーくんは険しい表情のまま、言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
そもそも、地獄に堕ちるくらい悪行を繰り返した亡者だから、現世に戻っても心を入れ替えるとは思えない。
「……なるほどのぉ」
泰山王が腕を組みながら低く唸る。
数人は腕を組み、数人は顔を見合わせ、理解しきれずに首を傾げている。
「ありがとう、都市王」
閻魔が静かに頷いた。
しん、と静まり返る室内。
重たい内容のせいか、さっきまでの軽い空気はすっかり消えている。
「……厄介だな」
最初に口を開いたのは、転輪さんだった。
「人道で亡者を崇め祀っているとは」
「少なくとも、ここまで悪質なんは珍しか」
「悪意ない亡者なんかいないでしょ。ただでさえ地獄での鬱憤を晴らせずに現世に戻っちゃったんだから」
変成くんがイライラしたように腕を組む。
「こりゃ面倒なことになったね〜……」
「ああ」
しょーくんと一緒にため息をつく。
「そいつらに好き勝手やられちゃ、十王の信用問題を問われるから、ちゃちゃっと送り還したいとこなんだけどな〜……めんどくさ」
「変成くんは獄卒の方が良かったんじゃない……?大叫喚地獄をぶっ壊したくらいだし」
「はは、何言ってんの、五官王。獄卒だとサボれないじゃん」
変成くんは“至って真面目です”みたいな顔で、堂々とサボり宣言をした。
「そもそも、仕事をサボることがいかんのである!」
平等王がドンッと長机を叩く。
「平等王の言う通りだ」
輪転さんも重々しく頷いた。
その時だった。
「――あ、そうだ」
軽い声を上げたのはごーちゃんだった。
全員の視線がそちらに向く。
「その件っぽいの見つけたんだよね」
「さすが五官王だね〜」
閻魔が素直に驚いた。
「いや、ほら。現世のネット見てたらさ、“生き返った配信者”の動画がバズってて」
ごーちゃんはスマホを操作し、テーブルの中央に画面を差し出した。
「これ」
画面に映っていたのは、一人の男だった。
暗い部屋。ぼそぼそと何かを呟きながら、カメラを見つめている。
その目は――どこか、焦点が合っていない。
「……こいつが?」
「あーそうそう。そんな顔ですよ」
都市くんが身を乗り出して画面を覗き込む。
「再生数……え、何これ」
「三日で五百万超えだってさ」
「はぁ!?」
宋が素っ頓狂な声を上げる。
「コメントも見てみなよ」
変成くんが画面をスクロールする。
〈生きてる……!〉
〈やっぱり戻ってきてくれたんだ〉
〈神様だ〉
〈次は“あれ”やってくれるよね?〉
「……怖い」
思わず、ぽつりと呟いてしまった。
まるで―――人じゃなくて、“何か”を信仰しているみたいだ。
「……気味が悪いな」
低く呟いたのは転輪さんだった。画面を睨むその目は、さっきまで以上に鋭い。
「信仰、というよりは……依存、かのぉ」
泰山王が顎に手を当てる。
「しかも、相手が“亡者”じゃっど。こいは質が悪か」
「怖いねぇ……今日、みんなで川の字で寝よう?」
コメントを読んでいた閻魔が震えながら言った。



