亡者逃走中 in 現世

「よーし、ようやく順番きたー!」
長蛇の列に並ぶこと十五分。くじ箱の前に立つ。
「はい、お嬢ちゃんは二回ね」
「はーい」
くじ係のおじさんは満面の笑みで箱を差し出す。中は見えないけれど、紙がぎっしり詰まっているのが分かる。
まず一回。
手を箱に突っ込み、ガサゴソと漁る。その一枚を取り出す。
結果、たわし。
二回目。
(今度は運を貯める感じで……頼む!)
バッとくじを引いて、開けてみるとビックリ!
そこに書かれていたのは、なんと『温泉半額チケット』
「よっっしゃぁぁぁ!」
思わずガッツポーズをする私。残念賞のたわしとの差に、喜びもひとしおだ。
「うるさっ」
変成くんが隣で露骨に引いた目する。
私達はチケットを貰って閻魔庁に向かった。実は、十王全員に召集がかけられているんだよね〜。
***
閻魔庁の一室、長机に座っているのは都市くんを除く九人の王。
会議の議題は―――『都市王失踪事件』。
「都市王、どこに行ったんだろうね〜」
宋が頬杖をつきながらぼやく。
「こちらも情報を探しているが、何も掴めないであるんである」
資料をめくりながら肩を落とす平等王。
「逆に亡者は現世で大量発生するし……」
うつらうつらと船を漕ぎ始めた私の肩を、隣に座るしょーくんが軽く叩いた。
「秦広王、ちゃんと会議は聞け」
「聞いてる聞いてる……今、都市王がどっか行ったって話でしょ……」
「そこから何も進んでないんだが?」
相変わらず意見はバラバラで、会議はすぐに混沌に。
「いやいや、まず都市王が何をしてるか分からないんだから、僕は趣味を調べるべきだと思うんだよね〜」
「まず亡者を裁くのが先である!」
宋が手を振り上げると、平等王が横から口を挟む。
「平等王がいる時の会議はだいたい長引く」
「平等サァの指摘は威圧感が凄くてのぉ……」
「重箱の隅を楊枝(ようじ)でほじくる行為は僕のいないところでして頂きたい……」
変成くんの呟きに乗っかるように、泰山王(たいざんおう)と転輪さん(五道(ごどう)転輪王(てんりんおう))が口を開いた。
その言葉に言い返すように平等王がツッコむ。
「いや、突っ込むだろう!貴様らの出す案はツッコミどころが多すぎるのであるんである!宋帝王はチェロスを食べるし、秦広王は会議の内容を思いっきり聞き逃しているんである!」
「え、私!?ちゃんと聞いてるよ!」
「では今の議題を言ってみろ」
「えっと……都市くんが……行方不明で……あとチェロス美味しそう」
「聞いていないではないか!」
「アタシ、明日学校なんだけどー」
手鏡で前髪をチェックしていたギャルのごーちゃん(五官王)が手を上げた。ごーちゃんは現世で女子高生として過ごしているらしい。
「そもそも、アタシや秦ちゃんみたいな女の子に徹夜はお肌に悪いの!」
ごーちゃんはピシッと指を立てた。
「う〜ん、やっぱりまとまらないよね〜」
「そもそもの原因はナルシ大王じゃん!」
「ナルシ……言うねぇ」
精神的にダメージを食らった閻魔は項垂れていた。
(相変わらずの豆腐メンタル……)
「都市王の居そうな場所ねぇー。あの子、趣味がアニメ鑑賞だからな〜……アニメとか流行りとか僕には分からないんだよね〜」
「あぁ……」
閻魔の言葉に平等王が遠い目をした。
「うっそ!都市くんの趣味ってアニメ鑑賞だったの!?」
「そういえば、前に都市王の部屋に遊びに行った時、二次元の推しのプロマイドが部屋の壁とアルバムに大量に貼ってあって正直ビビった」
「「怖っ」」
変成くんの言葉に私とごーちゃんの言葉が重なる。
(いや、人の趣味を悪く言ったらダメだよね……!)
「それより、今回の亡者の件も重要だし、都市王が戻るまでどう対応するか考えようよ!」
「その対応策も重要である!」
「いや、まず都市王探さないと!」
議論はエンドレス。机の上の書類も紙飛行機化し始め、誰かが屋台で買った亡者焼きを取り出してモグモグ食べる始末。
「話が脱線してるよ〜。はい、戻った戻った」
閻魔が手を叩いてみんなを注目させた。
「前にも言った通り都市王と連絡がつかなくなった。亡者の件もあるし、ひとまず亡者を裁きながら捜査を進める。僕も冥府の方で調べるから、みんなは今のまま現世に留まって今まで通り調べてほしい。頼んだよ」
閻魔の言葉に一同は頷いた。
「はぁ……」
変成くんがため息をついた。
「えー、アタシ明日試験なんだけど〜」
ごーちゃんが眉をへの字にしてスマホをいじりだす。
(大丈夫かな……高校生)
「あー、あと報連相は忘れずにね☆」
「解散ってことで良いであるんであるか?」
「うんうん、今日は解散ってことで―――」
閻魔の締めにより、今日の会議は終了。
閻魔庁にある自室の布団に倒れ込むと、体の力がどっと抜けた。
「……疲れた……」
机の上にくじで当てたチケットを置き、気絶するように眠りに落ちた。
その後、変成くんと仲良く遅刻したのは言うまでもない。