見たくなかった。今、一番見たくない光景だった。視線を逸らしたいのに逸らせなくて、苦しくて、気づいた時には私は北見の名前を呼んでいた。
「……北見」
自分でも驚くくらい弱い声だった。
「なに?」
北見が振り返る。いつも通りの顔。いつも通りの声。その目が、まだ東たちに気づいていないのか、それとも気づいていて何も思っていないのか、分からない。
でも、そこでふと冷静になる。
……そうだ。別に北見は、私の味方じゃない。なんで助けを求めるみたいに名前呼んでるんだろう。馬鹿みたい。北見にどうにかしてほしいわけじゃないのに。
するとその時、不意に東と目が合った。心臓が跳ねる。東は一瞬だけ目を見開いて、それからすぐ、いつもの表情に戻った。
「あ、う……おはよう、東」
変な声になった。やばい。絶対変だった。どんな顔すればいいんだろう。私、いつも東の前でどんなふうに笑ってたっけ。どうやって話してたっけ。急に分からなくなる。
ぎこちなく口元を引きつらせる私に、東は静かに口を開いた。
「西宮、おはよう。天馬も」
その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
……あれ?なんか、違う。東って、こんな声だったっけ。もっと柔らかかった気がする。もっと、優しかった気がする。なのに今の声は、妙に平坦で、熱がなくて。
昨日と同じだ。昨日からずっと、東が遠い。



