気づけば1組の教室前に着いていた。東の3組はまだ先。あっという間だった。もっと一緒にいたかったのに。
「じゃーね、西宮」
東が軽く手を振る。
行かないで。もっと話したい。もっと隣にいたい。そんな言葉、もちろん言えるわけない。だから私は笑った。
「また、会いに来てね。いつでもいるから」
東のために。なんて、絶対言えない。冗談みたいに軽く言う。
本当は冗談じゃないのに。本気なのに。本気ってバレたくない。でも少しくらい気づいてほしい。この気持ちに。私がどれだけ東を特別に思ってるか、ほんの少しでいいから。
そんな矛盾した願いを抱えながら東を見る。でも目の前の男は、そういう駆け引き全部無効化してくる。
「うん。また会いに来るね」
一切照れた様子もなく、普通にそう返してくるからずるい。
私が仕掛けたのに。私から言ったのに。なのに顔真っ赤になってるのは私だけ。
東はそんな私を見て楽しそうに笑ったあと、くるりと背を向けて歩いていく。
その背中を、私はしばらく見つめていた。
好き。どうしようもなく好き。
チャイムが鳴る。現実に引き戻される音。私は名残惜しさを飲み込みながら、ゆっくり教室の扉を開けた。



