「ふふ。じゃあね」
そう言って立ち上がる。私は慌てて顔を上げた。
「あ……」
呼び止めようとしたけれど、その先の言葉が出てこない。ありがとうも、ごめんも、何も。
南野さんはそのまま図書室の出口へ向かう。そして扉を開く直前、不意に振り返った。
「西宮さん」
名前を呼ばれて顔を上げる。すると南野さんは、べっと舌を出した。
「せいぜい頑張りなよ」
いたずらっ子みたいに笑う。そのままひらひら手を振って、図書室を出て行ってしまった。
扉が閉まる音が静かな室内に響く。取り残された私は呆然としていた。
……結局。私はからかわれただけなの?いや、それだけじゃない気もする。でも最後に落とされた爆弾が大きすぎて、他のことが全部吹き飛んでしまった。
東の元カノ。しかもすっごい美人。すっごい美人って何!?どれくらい美人!?
というか東、そんな話一回もしてくれなかったじゃん!知らなかったの私だけ!?
……気になる。ものすごく気になる。
今すぐ東に会って聞きたい。でも聞いたら聞いたで傷つきそうな気もする。
私は机に突っ伏した。
そんな私が知る由もなかった。図書室を出たあと、廊下を歩きながら、南野さんがひとりで泣いていたことを。
できることなら…こんな形じゃなくて、東を挟んだ複雑な関係でもなくて、ただ普通に出会っていたなら。きっと私たちは、友達になれたんじゃないかなって。
そんなことを、少しだけ思ってしまうくらいには、南野さんは最後まで格好よかった。



