「えと、じゃあ……」
どうにかこの場を切り抜けようとして口を開いたものの、その先の言葉が全然出てこなかった。
「なに?汀に用あるんじゃないの?」
南野さんが当たり前みたいに東の名前を口にした瞬間、私の心臓は嫌なくらい大きく跳ねた。ドクン、と胸の奥が鳴る。なんだか隠していたことを見透かされたみたいで、思わず肩が強張った。
「東に用があったわけじゃないよ……ただ」
「ただ?」
鋭い視線が向けられる。うう、無理だ。何も思いつかない。今ならまだ、自分の教室と間違えたとか適当なことを言って逃げられるかもしれない。
頭の中で必死に言い訳を探していたのに、
「西宮さん、ちょっと話そうよ」
南野さんは不敵な笑みを浮かべながら私の腕を掴んだ。
その瞬間、私は悟った。
あ、逃げられない。
思ったより強い力で腕を引かれ、そのままずるずると廊下を歩かされる。



