「すぐり、呼んで」
低い声が耳に届く。その一言だけで身体が震えそうになる。
呼んでほしいんだ。私に。東の名前を。
「…な、汀」
震える声でようやく名前を呼ぶ。すると東は嬉しそうに笑った。
ずるい。そんな顔するなんて。少しは東だってドキドキしていてほしいのに。
「朝、言ってたこと覚えてる?」
「朝?」
記憶を辿る。そして教室の前で交わした会話を思い出した瞬間、一気に顔が熱くなった。
「すぐり。抱きしめてもいい?」
「…っ、」
いいよ。そう言おうとしたけれど、言い切る前にふわりと身体が引き寄せられる。
気付けば私は東の腕の中にいた。大きな腕が背中へ回る。
胸に頬が触れる。東の体温が近い。心臓の音が聞こえる気がする。
東の匂いがする。好きな人の温もりに包まれた瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。
幸せだった。どうしようもなく幸せだった。
東の腕の中は思っていたよりずっと温かくて、安心できて、心地よくて。ずっとここにいたいと思ってしまうくらいに。



