涙が、止まらない。
なんだよそれ………なんなんだよ。
母さんもおまえも、今さらすぎる。
俺がどれだけ俺にしかない苦しみに耐えてきたと思ってんだよ。
だったらもっと早くに言えよ。
あの頃の、自分が自分として生きることさえ許されなかった俺に言ってくれよ。
「あっ、ちょっ、おい望…!」
物陰から弟の声がしたと同時、俺の背中にぽすっと突っ込んできた何か。
振り返ると末っ子で、俺はいつものように鬱陶しい顔を向けるべきか迷ってしまった。
「ボク…、ノゾミにする…」
「…は?」
「なまえっ、ノゾムじゃなくて、ノゾミにする…っ」
謎すぎる改名宣言。
その先に視線を移せば、木陰に楓とメイドの姿があった。
「そうすれば……兄ちゃんだけが名前で苦しまずに済む…から」
“兄ちゃん”
初めてだった。
弟に、そんな呼び方をされたのは。



