「なあ葉奈。…母さんの名前、漢字で書けるか?」
「…書けるけど」
急になんなんだよ。
私立高校って言ったって、偏差値はかなり高いとこだから。
一応は進学校だし、金のチカラでどうにかなるセレブ校にはない努力ってやつがある。
「…おまえと同じ漢字が使われてるよな」
里奈───という字を、俺はそっと脳内に浮かべる。
そんなところをわざわざ気にしなければ俺は認められる存在ではないのかと、やっぱり自嘲する部分はあった。
俺だけ女みたいな名前。
年子の次男など必要なかった証。
「俺たち兄弟は……ひとつの木なんだ」
「…木?」
「長男の俺が幹だとすれば、しなやかな葉が葉奈で、それを揺らす風が楓。全員の希望を乗せる……望」
詩人みたいな口ぶりに、つい鼻で笑ってしまった。
さすがに無理あるだろと、言おうとした俺に。
「母さんはいつもそう言ってた」
さらさらと、俺たちを見下ろした大きな新緑が風に揺られて音を鳴らす。
母親の言葉だけは嘘だとは思えなかった。
昔から病弱で、俺はいつもみんなが寝静まったあとに話す程度でしかなかったけれど。
彼女の優しさと慈しみだけは、今もなぜか忘れることができない。



