「…今日は日向家の長男っていうのを忘れたかったんだ」
「うん。だったらそれこそ楽しまなきゃ損だよ」
「…そうだな。よし、野菜もちゃんとしっかり食えよ」
「はい!」
夢みたいだった。
前までのわたしからすれば、今のイベントは。
周りにどう見えているか分からないけど、これだってデートだって言い張ることもできるだろうし。
でも、ずっと切なそうな顔をしているアニキを前にして。
デートだなんてはしゃぐことは、できそうにない。
「ねえ、アニキ。…椿さんと結婚したくないって、ほんとうなの?」
自分で湯がいたお肉を口に運ぼうとしていた動きが、ふと止まった。
「…さあな」
「さあなって、やっぱり葉奈のお兄ちゃんだよね〜」
「そこまで似てねえだろ」
「いーやそっくり!自分のことぜんっぜん話そうとしないくせに察してちゃんなところとか!」
「…なんだそれ」
そーいうところもそっくりだ。
場が悪くなると逸らして逃げようとするところ。
嘘が、下手すぎるところ。



