「旦那様、このあとの便に乗らなければ大事な商談に間に合いません」
「…ああ。識、私は認めていないからな」
旦那様と執事の用件はそれだけだったようで、すぐに屋敷を出ていった。
静まりかえるリビング。
誰がまずこの重すぎる空気を打破できるか、もはやゲームだ。
「ハナちゃんには一言もないのかよ……」
悔しそうに嘆いた楓くん。
私もそれはずっと思っていて、だって今回の風評被害はどう考えても葉奈だから。
父親として労りや申し訳なさはないのかと、主が消えてから怒りが生まれてくる。
「それがあいつなんだよ、楓」
「でも…っ」
「いーんだよ。逆になにか言ってきたほうが気色悪い」
「……ごめん」
とりあえずわたしは、救急箱から消毒液と絆創膏を取り出してアニキに駆け寄る。
メイドとして怪我人を治療することは心得ているし、仕事のひとつだ。



