日向家の諸事情ですが。





「おい。サナちゃん」


「………、」


「こればっかは仕方ないだろもう」



仕方ない……。
わかってるよ、そんなこと。

なんとなく葉奈の声が優しくなったような気がした。



「…なんだったら忘れさせてやろーか」


「え…?」


「俺ならそれ、できるけど?」



覗き込むようにサラッと、ピンクベージュの髪がわたしの頬に触れる。


忘れるって、なにを…?
今のこと?

アニキへの気持ちそのものを…?


わたしの想いは、はやく忘れないといけないものなの…?



「……っ」



思わずくしゃっと、唇と眉が崩れた。


メイドとしての顔ではない、確実に。

こんなのただの恋を失った女の子の顔だよ。



「あれは……無理だよ…」



ちょっと違うんだ、葉奈。


戦意喪失というより、そもそも戦う余地すら残されていないのがわたし。


大東家は日向家に並ぶ家柄だ。

両家の思惑あってこその政略結婚なのかもしれないけれど、椿さんを一目見てわたしは分かってしまった。


彼女はアニキのことが、本当に好きだって。