「…椅子、余ってんだけど」
誰もが末っ子を優しく見守るなか、ぽつりとつぶやいたのは葉奈。
空席となったひとつは、本来であればただの余った空席というだけ。
彼らの父親である旦那様が帰宅したときはもちろん使うだろうし、居なければ飾りのように置いておくものだ。
「なあ識、そこ幽霊でも座ってんのかよ」
「…いや。ラストひとりがなかなか座ってくれねえんだよ」
「そのちょこまかちょこまか動いてる奴だろ?」
「ああ。…葉奈、おまえが言えば言うこと聞くかもな」
双子の弟たちはそんな光景をただ見守っていた。
向かい合った長男と次男は会話を終えると、片方はとうとうわたしへ視線を移してくる。
ただならぬ何かを感じるのはもう、仕様だ。
「おまえはもうどーやったとしてもこの屋敷から出られないし、俺たちも出させやしないから。…つぎ焼肉するときはサナちゃんもするんだよ」
「……!」
そう言って立ち上がったと思えば、わたしの前にひとつのマスコットキーホルダーが差し出される。
黄色のネクタイをしたクマは、いつかわたしも……と、密かにこっそりと願ってしまっていた自分勝手なマスコット。
それを葉奈から差し出されることになるなんて……。



