『迷ったら、追い詰まったら、使えるだけ日向家の権力を使いなさい。…誰かを助けるためなら許されるわ。そしてあなた自身が我慢するくらいなら……』
『…くらいなら……?』
『ふふ。そのときはもう、逃げちゃいなさい』
『え…、いいの?だって俺は…長男だから』
『…そうね。でも、識は恵まれた長男なのよ。楓も望もいて、いろんなことを分け合える弟たちに囲まれているでしょう?…もちろん葉奈も』
母は、そういう人だった。
病弱だと思わせながらも、たまに意地悪に骨格を引き上げるひと。
そして俺は、その血を受け継いでいることが誇りだった。
「ひゅ、日向様…?本日はどのようなご要件で…?もしかしてまたサナが何か───」
「それはあんたが誰よりも知ってんじゃねえのかよ」
「っ、……どうぞ…お上がりになって?」
とつぜん日暮家に押しかけた俺に驚いた顔を作り、すぐさま違う表情で俺を部屋に上げたサナの義母。
俺は珍しく気が立っていた。
手にしたアタッシュケースの持ち手を握る指が、無意識にも食い込む。



