日向家の諸事情ですが。





ひとりのメイドに歪んだ執着を向けられてしまった弟は。

そして父さえ、そんな息子を見て見ぬふりをしている現実は。


たった9歳の弟にとってどんなにどんなに苦しいものなんだろう。



『おかあさん…、葉奈、可哀想だ…』


『…識』


『だってあいつ…、いつも屋敷からずっと俺や楓のこと見てるんだ……』 



母の容態をこれ以上悪化させたくなかったから、俺は弱音を吐くことはしたくなかった。


けれど見ていられなかった。


兄なのに、兄ちゃんなのに、長男だからという理由だけで俺は守られて。

反対に葉奈は自分らしく生きることさえ許されず、隔離されたような毎日。


とうとう母に打ち明けてしまったその日、俺はまた弟から恨まれるだろうと覚悟の上だった。



『どうして葉奈だけ名前が女の子みたいなの?どうして葉奈だけっ、あんな格好させられるんだよ…!』


『ゴホッ、ごほ…っ』


『あっ、ご、ごめんおかあさん…!俺のせいで…っ』


『…大丈夫。識、これからお母さんが言うことを、いつか……未来の葉奈に言ってあげてくれる?』